関係者各位
いつも大変お世話になっております。
元道庁職員の振興局太郎でございます。
標記の件につきまして、下記のとおりお知らせいたします。
※誠に勝手ながらペンネームを変えることといたしました。詳しい経緯については、次稿にて説明いたします。読者の皆様には混乱を招いてしまい恐縮ですが、ひとまず記事を投稿させていただきます。
始めに-問題意識は共有している
先日、note執筆者である北の役人さんが、私が以前書いた記事について感想を書かれていました。
私の拙い文章に対し、丁寧に論点を整理してご意見を示してくださったことに感謝いたします。

読んでいて感じたのは、世代の違いはあれど、問題意識そのものは決して対立していないということです。
北海道という地域経済の中で、公務員という職業がどのような意味を持ち、そこで働く若者たちがどのような将来像を描いているのか。
その問いは、私自身が現場で感じてきた違和感とも重なります。
一方で、いくつかの論点については、時代背景や制度設計の違いを踏まえて整理し直す必要があるとも感じました。
今回は、「【考察】高卒道庁職員にみる“平等と格差”の実情につきまして」について言及された北の役人さんの記事に対する応答をさせていただきます。
本稿は反論を目的とするものではありません。
むしろ、世代差や採用制度の変遷といった前提条件を明確にしながら、議論をより立体的に捉え直す試みです。
その前提のもとで、順に論点を検討していきます。
時代背景の違い-世代と制度前提条件
そもそも、「高卒だから不利」「大卒なら有利」という議論を正しく整理するには、時代背景と制度設計の前提条件を明確にする必要があります。
ここで重要なのは、単に経験談や印象論ではなく、当時と現在とで社会構造や採用制度がどのように変化してきたかを押さえることです。
まず、大学進学率の変化を確認しておきましょう。
文部科学省の学校基本調査によれば、令和6年度の大学等進学率は学部進学のみで約59.1%、短期大学等を含めると62.3%に達し過去最高を記録しています。

これは、“大学全入時代”と呼ばれるほどに大学進学率が数十年前より大きく上昇したことを示しており、大学卒が必ずしも“希少価値”ではなくなっている現実を反映しています。
北の役人さんが指摘されていた「1970年代当時の大学進学率:約20%台」という感覚は、高度経済成長期からバブル期前後の教育状況を背景とした世代ものです。
年代間で教育機会の幅や社会的価値が変化していることは、制度議論において極めて重要です。

次に、北海道庁の採用制度について説明します。
現在の勤務制度では、採用区分として “A区分・B区分・C区分”が設けられています。
A区分は22歳から30歳で大学卒業者が主な対象。
B区分は18歳から21歳までの高校卒業者を対象とする試験です。
C区分は社会人経験者向けの枠として、広い年齢帯をカバーする仕組みになっています。
かつては採用試験において“初級・中級・上級”という区分が使われていた時期もあり、年長職員やOBの方々の経験談でも聞かれます。
聞いたところ、この採用区分は、国会公務員における“キャリア”と“ノンキャリア”のような分類で、採用区分自体が出世に直結していたような印象を受けます。
また、入庁後に上級区分の試験を受けなおす、といったことも可能だったようです。
しかし、現在の道庁公式の採用制度は『A/B/C区分』という形で整理されています。
そして、採用後の待遇に関しても、総務省や北海道庁のデータから見る限り、年齢や経歴による給与差があるものの、「B区分採用は極端に不利でA区分だけが優遇される」という構造にはなっていません。
例えば、北海道職員の初任給を見ると、B区分(高校卒)での初任給は約20万円前後、A区分(大学卒)で約23万円前後と、差はあるものの、これは高卒と大卒の年齢差に起因するもので、学歴や身分の隔たりではない点も事実として押さえておくべきです。
単純な「高卒・大卒」という二元論ではなく、制度設計全体のなかでキャリアパスがどう用意されているかを検討することが重要なのです。
このように、「大学進学率の上昇」と「採用区分の変化」は、当時と今とで前提条件が大きく異なることを示しています。
北の役人さんが触れられた点には感謝しつつ、時代背景と制度設計の変化を踏まえたうえで論点を整理する必要があります。
私が採用される10年ほど前から採用区分が「初級~上級」から「A~C区分」へと変わっています。
昔の採用区分の試験内容や給与・昇進のメカニズムや実態について、北の役人さんに教えていただきたいなと思った次第です。
賃金差の実像
高卒職員と大卒職員の賃金差について、もう少しだけ掘り下げてみます。
既に書いたとおり、北海道職員の初任給を見ると、B区分(高校卒)での初任給は約20万円前後、A区分(大学卒)で約23万円前後となっています。
この差は約3万円程度ですが、ここで重要なのは、この差が“学歴差別的な制度”から生じているのではなく、採用区分に対応した初任給格付けと年齢差に基づく号給設定によるものであるという点です。
地方公務員の給与は、各自治体の給与条例および総務省の「地方公務員給与実態調査」に基づき、学歴別初任給基準+号給表で決定されます。
つまり、制度上は「高卒だから低く抑える」という設計ではなく、採用時点での年齢・区分に応じたスタートラインの違いが反映されているに過ぎません。
次に問題となるのは昇給カーブです。
地方公務員の給与は、基本的に
- 毎年の定期昇給(号給昇格)
- 人事評価による昇給差
- 役職昇任による級別昇格
という三要素で構成されています。
総務省の給与実態調査を見ると、地方公務員全体の平均給与月額は年齢とともに上昇する傾向にありますが、その差は採用区分のみで決まるものではありません。
役職登用、評価、配置ポストが大きく影響します。
したがって、「B区分採用=昇進できない」という制度構造が明示的に存在しているわけではありません。少なくとも、北海道庁の現行制度上、A区分のみが管理職候補であるという明文化された規定は確認できません。
国の国家公務員制度では、
- 総合職(いわゆるキャリア)
- 一般職
という制度的区分が明確に存在します。
この区分は、政策立案中枢ポストへの登用構造に直接関わっています。
一方、北海道庁の現行A/B/C区分は、国家公務員の総合職・一般職のような明確な階層制度として設計されているわけではありません。
少なくとも制度上は、採用試験区分がそのまま終身的身分差を固定する構造にはなっていないことが確認できます。
ここは、1970~2000年代当時の「上級=幹部候補」という印象とは制度的前提が異なる可能性が高い点です。
北の役人さんが経験された時代において、もし採用区分が実質的に昇進ラインと結びついていたのであれば、その制度設計の詳細こそ、世代間議論を深化させる鍵になります。
高卒は北海道では「勝ち組ルート」か
高卒で公務員になることを「勝ち組ルート」と呼ぶ言い方は、しばしば進路選択の場面で耳にします。
高卒公務員が「勝ち組」とされる理由の一つは、一般的な高卒就職と比べて待遇や安定性が相対的に良いことです。
統計的な比較は地域や産業によって異なるものの、一部の分析では、地方公務員の給与や福利厚生は民間企業の平均と比べて高い傾向があるとされています。
特に高卒の新卒者が民間企業に就職する場合、初任給や待遇面で公務員の方が優位になるケースも少なくありません。

一方で、「勝ち組」の定義は単純な給与や安定性だけではありません。
高卒公務員は一般に、民間企業の高卒社員と比べて比較的高い給与水準や手当、福利厚生を獲得できる傾向がありますが、逆に言えば民間企業でも専門性や技術力を磨くことで同等以上の収入やキャリアを築ける人もいます。
また、採用倍率の高さや安定性は魅力的ですが、それは裏返せば、高卒公務員になるための競争そのものが存在することも意味します。
高卒試験の受験枠は大卒程度に比べて人数が少ないこともあり、内定を勝ち取るための準備や対策は必要です。
北海道という地域の実情を考えると、民間就職市場は製造業やサービス業中心であり、給与水準が全国大都市に比べ低い傾向があります。
一部の分析では、地方都市における高卒労働者の平均賃金は全国平均を下回ることが指摘されています。
このため、「高卒で地方公務員になること」は地域の労働市場の文脈で意味を持つ選択肢となっています。
公務員としての待遇・安定性を得られることは、他の高卒就職選択肢と比較した場合に相対的に価値が高いと言えるでしょう。
では、この「勝ち組」という表現は高卒だけに当てはまるのか。
全くもってそうではありません。
制度的に整った待遇を享受しながらも、個々の価値観や将来展望と照らし合わせた選択であることが重要であり本質です。
高卒で公務員になるという選択は、他のキャリア選択肢に比べて合理性が高いケースが多いというだけで、それが普遍的にすべての高卒者にとっての「勝ち組ルート」であるとは限りません。
結局のところ、高卒で公務員になるという道は、あくまで“地域で安定した生活基盤を築く一つの合理的選択肢”の一つであり、他の選択肢と比較した際の優位性を持つ場面が多いというだけです。
これを「勝ち組」と呼ぶかどうかは、各自の価値観や人生設計次第であると言えるでしょう。
結び
本稿では、北の役人さんの論考を手がかりに、
- 時代背景の違い
- 賃金差の実像
- 高卒公務員という選択の合理性
という順で論点を再整理してきました。
私が書いた記事に対して詳細な解説を入れてくださったおかげで、私の方でも自身のブログのテーマを再整理することが出来たように思います。
世代によって、大学進学率も、採用区分も、地域経済の構造も異なります。
かつては“高卒で安定職に就くこと自体が強い意味を持ち、現在では学歴選択の幅が広がる中で、「どのルートが合理的か」が問われる時代です。
北海道という地域において、高卒で地方公務員になるという進路は、統計的に見ても相対的な優位性を持つ場合が多い。
給与水準、雇用安定、福利厚生、転勤範囲…いずれも地域の高卒労働市場全体と比較すれば、条件は整っています。
その意味で“合理的選択”足り得ることは否定しません。
しかし同時に、公務員という職業が地域経済の中で果たす役割は、単なる安定就職の受け皿ではありません。
行政は、人口減少・財政制約・産業構造の変化という難題の只中にあります。
そこで働く若者に求められるのは、安定を享受する姿勢だけではなく、地域の持続可能性に責任を持つ主体性です。
北の役人さんが示された問題意識も、私が現場で感じてきた違和感も、根底では「北海道で働く人間がどのような将来像を描けるのか」という問いに収斂しているように思います。
公務員が“勝ち組”かどうかというラベリングは、全くもって本質ではありません。
本当に重要なのは、その制度が地域にとって健全に機能しているか、そして若者にとって希望を持てる構造になっているかという点です。
議論は、世代間の価値観の違いを超えて、制度設計そのものへと向かうべきでしょう。
採用区分、処遇体系、人材育成、地域経済との接続。これらを総合的に捉え直すことで、初めて「北海道における公務員」という存在の意味が立体的に見えてきます。
本稿は結論を断定するためのものではありません。
むしろ、前提条件を明確にし、世代差を紹介するのではなく、互いの論点を整理することで、議論を一段深めることを目的としました。
北海道の若者にとって、公務員という職業は何を意味するのか。
その問いを、これからも丁寧に検討していきたいと思います。
令和8年2月26日
北海道庁生存戦略部
異端企画局
内部是正推進課非公式記録整理係
主事 振興局太郎
この記事は、元道庁職員としての個人的体験と見解に基づいています。
行政・公務員の世界に関心のある方の参考になれば幸いです。



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