【持ち回り決裁】北の役人さんの論考への応答-世代と制度の視点から-

行政組織・公務員

追記(2026年9月)

本記事は2026年2月26日に執筆した記事です。実名での発信へ移行するにあたり、当時の趣旨を変えない範囲で整理・加筆しています。

関係者各位

いつも大変お世話になっております。
元道庁職員の白川部けいたでございます。

標記の件につきまして、下記のとおりお知らせいたします。

始めに-問題意識は共有している

先日、note執筆者である北の役人さんが、私が以前書いた記事について感想を書かれていました。
私の拙い文章に対し、丁寧に論点を整理してご意見を示してくださったことに感謝いたします。

鈴木邪道さんに勝手連|北の役人|note
鈴木邪道さんに勝手連

読んでいて感じたのは、世代の違いはあれど、問題意識そのものは決して対立していないということです。
北海道という地域経済の中で、公務員という職業がどのような意味を持ち、そこで働く若者たちがどのような将来像を描いているのか。
その問いは、私自身が現場で感じてきた違和感とも重なります。

一方で、いくつかの論点については、時代背景や制度設計の違いを踏まえて整理し直す必要があるとも感じました。

今回は、「【考察】高卒道庁職員にみる“平等と格差”の実情につきまして」について言及された北の役人さんの記事に対する応答をさせていただきます。

本稿は反論を目的とするものではありません。
むしろ、世代差や採用制度の変遷といった前提条件を明確にしながら、議論をより立体的に捉え直す試みです。
その前提のもとで、順に論点を検討していきます。

【考察】高卒道庁職員にみる“平等と格差”の実情につきまして
追記(2026年9月) 本記事は2025年11月29日に、北海道庁で一緒に働いた若手職員との経験をもとに執筆したものです。実名での発信へ移行するにあたり、当時の問題意識を残しつつ、学歴や個人の属性を一括りにして評価しているように読める表現を…

時代背景の違い-世代と制度前提条件

そもそも、「高卒だから不利」「大卒なら有利」という議論を正しく整理するには、時代背景と制度設計の前提条件を明確にする必要があります。
ここで重要なのは、単に経験談や印象論ではなく、当時と現在とで社会構造や採用制度がどのように変化してきたかを押さえることです。

まず、大学進学率の変化を確認しておきましょう。
文部科学省の学校基本調査によれば、令和6年度の大学等進学率は学部進学のみで約59.1%、短期大学等を含めると62.3%に達し過去最高を記録しています。

学校基本調査-令和6年度 結果の概要-:文部科学省

これは、“大学全入時代”と呼ばれるほどに大学進学率が数十年前より大きく上昇したことを示しており、大学卒が必ずしも“希少価値”ではなくなっている現実を反映しています。

北の役人さんが指摘されていた「1970年代当時の大学進学率:約20%台」という感覚は、高度経済成長期からバブル期前後の教育状況を背景とした世代ものです。

年代間で教育機会の幅や社会的価値が変化していることは、制度議論において極めて重要です。

学校基本調査 (参考資料)年次統計 総括表 4 進学率(昭和23年~) | ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口
学校基本調査は、学校に関する基本的事項を調査し、学校教育行政上の基礎資料を得ることを目的としています。全国の幼稚園、幼保連携型認定こども園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学、短期大学、高等専門学校、専…

次に、北海道庁の採用制度について説明します。
現在の勤務制度では、採用区分として “A区分・B区分・C区分”が設けられています。

A区分は22歳から30歳で大学卒業者が主な対象。
B区分は18歳から21歳までの高校卒業者を対象とする試験です。
C区分は社会人経験者向けの枠として、広い年齢帯をカバーする仕組みになっています。

よくあるご質問※令和7年度版 – 人事委員会事務局任用課
受験資格等 Q 学歴による受験資格要件はありますか? A 普及職員(農業)、普及職員(水産)の試験区分を除いて学歴…

かつては採用試験において“初級・中級・上級”という区分が使われていた時期もあり、年長職員やOBの方々の経験談でも聞かれます。
聞いたところ、この採用区分は、国会公務員における“キャリア”と“ノンキャリア”のような分類で、採用区分自体が出世に直結していたような印象を受けます。
また、入庁後に上級区分の試験を受けなおす、といったことも可能だったようです。

しかし、現在の道庁公式の採用制度は『A/B/C区分』という形で整理されています。
そして、採用後の待遇に関しても、総務省や北海道庁のデータから見る限り、年齢や経歴による給与差があるものの、「B区分採用は極端に不利でA区分だけが優遇される」という構造にはなっていません。

例えば、北海道職員の初任給を見ると、B区分(高校卒)での初任給は約20万円前後、A区分(大学卒)で約23万円前後と、差はあるものの、これは高卒と大卒の年齢差に起因するもので、学歴や身分の隔たりではない点も事実として押さえておくべきです。

勤務条件・待遇 – 北海道職員 採用情報サイト
採用試験や福利厚生に関する情報等これから北海道職員を目指す方に有力な情報を掲載。

単純な「高卒・大卒」という二元論ではなく、制度設計全体のなかでキャリアパスがどう用意されているかを検討することが重要なのです。

このように、「大学進学率の上昇」と「採用区分の変化」は、当時と今とで前提条件が大きく異なることを示しています。
北の役人さんが触れられた点には感謝しつつ、時代背景と制度設計の変化を踏まえたうえで論点を整理する必要があります。

私が採用される10年ほど前から採用区分が「初級~上級」から「A~C区分」へと変わっています。
昔の採用区分の試験内容や給与・昇進のメカニズムや実態について、北の役人さんに教えていただきたいなと思った次第です。

賃金差の実像

高卒職員と大卒職員の賃金差について、もう少しだけ掘り下げてみます。
既に書いたとおり、北海道職員の初任給を見ると、B区分(高校卒)での初任給は約20万円前後、A区分(大学卒)で約23万円前後となっています。

この差は約3万円程度ですが、ここで重要なのは、この差が“学歴差別的な制度”から生じているのではなく、採用区分に対応した初任給格付けと年齢差に基づく号給設定によるものであるという点です。
地方公務員の給与は、各自治体の給与条例および総務省の「地方公務員給与実態調査」に基づき、学歴別初任給基準+号給表で決定されます。

令和5年地方公務員給与の実態

つまり、制度上は「高卒だから低く抑える」という設計ではなく、採用時点での年齢・区分に応じたスタートラインの違いが反映されているに過ぎません。

次に問題となるのは昇給カーブです。
地方公務員の給与は、基本的に

  • 毎年の定期昇給(号給昇格)
  • 人事評価による昇給差
  • 役職昇任による級別昇格

という三要素で構成されています。
総務省の給与実態調査を見ると、地方公務員全体の平均給与月額は年齢とともに上昇する傾向にありますが、その差は採用区分のみで決まるものではありません。
役職登用、評価、配置ポストが大きく影響します。

したがって、「B区分採用=昇進できない」という制度構造が明示的に存在しているわけではありません。少なくとも、北海道庁の現行制度上、A区分のみが管理職候補であるという明文化された規定は確認できません。

国の国家公務員制度では、

  • 総合職(いわゆるキャリア)
  • 一般職

という制度的区分が明確に存在します。
この区分は、政策立案中枢ポストへの登用構造に直接関わっています。

一方、北海道庁の現行A/B/C区分は、国家公務員の総合職・一般職のような明確な階層制度として設計されているわけではありません。
少なくとも制度上は、採用試験区分がそのまま終身的身分差を固定する構造にはなっていないことが確認できます。
ここは、1970~2000年代当時の「上級=幹部候補」という印象とは制度的前提が異なる可能性が高い点です。

北の役人さんが経験された時代において、もし採用区分が実質的に昇進ラインと結びついていたのであれば、その制度設計の詳細こそ、世代間議論を深化させる鍵になります。

高卒は北海道では「勝ち組ルート」か

高卒で公務員になることを、俗に「勝ち組ルート」と表現することがあります。

この言い方は分かりやすい一方で、私は今では少し慎重に使うべきだと思っています。そもそも何をもって「勝ち」とするかは、給与、安定性、勤務地、仕事内容、将来の選択肢など、その人が仕事に何を求めるかによって変わるからです。

ただし、北海道という地域の労働市場を前提に考えれば、高校卒業後に地方公務員になることが、生活基盤を早い段階で安定させる合理的な進路の一つであることは確かだと思います。

大学進学に伴う学費や生活費を負担せず、18歳前後から安定した収入を得ながら、公務員として経験を積んでいく。給与や各種手当、福利厚生などを含めれば、地域や職種によっては民間企業への就職と比較して魅力を感じる人がいるのも自然です。

高卒で公務員になれば勝ち組?意外と知らない公務員の現状も紹介 | U:study
「高卒で公務員になれば勝ち組なの?」「実際、公務員の現状はどう?」 上記のように思っている方は、多いのではないでしょうか。 公務員は、「給与が高い」「一生なくならない仕事だから安定」といわれることもあります。 そのため、高校卒業後に民間企業

一方で、それがすべての人にとって最善の進路であるわけではありません。

民間企業で専門性や技術を身につけ、より高い収入や自分に合ったキャリアを築く人もいます。大学や専門学校へ進み、別の分野へ進むことに価値を見いだす人もいます。

したがって、「高卒公務員=勝ち組」と一般化するより、

北海道で安定した生活基盤を築くうえで、比較的条件の整った選択肢の一つ

と捉える方が正確でしょう。

そしてこれは、高卒者だけに限った話でもありません。大卒であっても、民間企業で働く場合であっても、大切なのは「周囲から勝ち組と呼ばれるか」ではなく、その仕事が自分の価値観や将来設計に合っているかどうかです。

結局、「勝ち組」という言葉は結果を外からラベリングするための表現にすぎません。

本当に重要なのは、本人がその進路を理解したうえで、自分自身で選び取れているかどうかではないでしょうか。

【考察】公務員の「安定」とは何か
追記(2026年9月) 本記事は2025年11月30日に、公務員の「安定」という言葉への違和感をもとに執筆したものです。実名での発信へ移行するにあたり、当時の問題意識を残しつつ、公務員全体を一括りにしているように読める表現や、感情的な比喩を…

結び

本稿では、北の役人さんの論考を手がかりに、

  • 時代背景の違い
  • 賃金差の実像
  • 高卒公務員という選択の合理性

という順で論点を再整理してきました。
私が書いた記事に対して詳細な解説を入れてくださったおかげで、私の方でも自身のブログのテーマを再整理することが出来たように思います。

世代によって、大学進学率も、採用区分も、地域経済の構造も異なります。
かつては“高卒で安定職に就くこと自体が強い意味を持ち、現在では学歴選択の幅が広がる中で、「どのルートが合理的か」が問われる時代です。

北海道という地域において、高卒で地方公務員になるという進路は、統計的に見ても相対的な優位性を持つ場合が多い。
給与水準、雇用安定、福利厚生、転勤範囲…いずれも地域の高卒労働市場全体と比較すれば、条件は整っています。
その意味で“合理的選択”足り得ることは否定しません。

しかし同時に、公務員という職業が地域経済の中で果たす役割は、単なる安定就職の受け皿ではありません。
行政は、人口減少・財政制約・産業構造の変化という難題の只中にあります。
そこで働く若者に求められるのは、安定を享受する姿勢だけではなく、地域の持続可能性に責任を持つ主体性です。

北の役人さんが示された問題意識も、私が現場で感じてきた違和感も、根底では「北海道で働く人間がどのような将来像を描けるのか」という問いに収斂しているように思います。

公務員が“勝ち組”かどうかというラベリングは、全くもって本質ではありません。

本当に重要なのは、その制度が地域にとって健全に機能しているか、そして若者にとって希望を持てる構造になっているかという点です。

議論は、世代間の価値観の違いを超えて、制度設計そのものへと向かうべきでしょう。
採用区分、処遇体系、人材育成、地域経済との接続。これらを総合的に捉え直すことで、初めて「北海道における公務員」という存在の意味が立体的に見えてきます。

本稿は結論を断定するためのものではありません。
むしろ、前提条件を明確にし、世代差を紹介するのではなく、互いの論点を整理することで、議論を一段深めることを目的としました。

北海道の若者にとって、公務員という職業は何を意味するのか。
その問いを、これからも丁寧に検討していきたいと思います。

令和8年2月26日

この記事は、元道庁職員としての個人的体験と見解に基づいています。
行政・公務員の世界に関心のある方の参考になれば幸いです。

コメント

  1. 北の役人 より:

    こんにちは。私のさほど論証もしていないノートの記事に丁寧な応答をいただきありがとうございます。
    なぜ道庁の決裁文書は「存在するのに中身がない」の中で指摘されていたことの内容から鈴木さんは逆に検討や比較など根拠を考える職員だったことが想像できました。この若さでそこまで考えていた職員は私の時代には、係長クラスにもあまりいませんでしたから、道庁は有能な人材を失ってしまったと思いました。記事のとおり上級職はキャリアという位置づけで、一般職の部人事とは別に人事課直轄で人事異動が行われていたらしい(人事課や人事担当でもないのでまた聞きです)ことと、給与に関しては、当時、高卒だと大卒の生涯賃金を抜くことはないと聞いた記憶です。ここは、さすらいの地方公務員さんにも指摘されましたので、私の誤りなのでしょう。「世代の違いはあれど、問題意識そのものは決して対立していない」ことに私もそう思いますし「道庁は、北海道の未来を背負うべき行政機関だ。 だからこそ、今のままではいけない。」ということは全く同感です。時代がずれていて私の理解が遅れている部分もあろうかと思いますがそれは指摘いただければ幸いです。今後ともよろしくお願いいたします。

    • 北の役人さん
      丁寧なコメントをありがとうございます。

      まずは本件、「持ち回り決裁」にてご承認いただきましたこと、ありがたく思います(笑)。
      制度や世代の違いはあれど、問題意識が重なっていることを改めて確認できたのは大変嬉しく思います。

      上級職や人事の運用についてのご指摘もありがとうございます。私の理解が及んでいない部分もまだあると思いますので、今後もご教示いただければ幸いです。

      なお、細かな経緯は次の記事で触れますが、少し事情がありましてペンネームを変更いたしました。心機一転ではありますが、問題意識そのものは変わりません。

      これからも北の役人さんのnoteで私の記事を題材にしていただければ光栄です。私もそこから議論を広げていければと思います。

      今後ともよろしくお願いいたします。

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