【通知】行政の果てしない非効率について

公務員

関係者各位

いつも大変お世話になっております。
元道庁職員鈴木邪道でございます。
標記の件につきまして、下記のとおりお知らせいたします。

冬になると工事が止まる。ただそれだけで行政は大混乱

寒冷地では、気温が下がると舗装を始めとする多くの工事が実質的に不可能になります。

雪がどうとか以前に、材料が固まらなかったり、凍結による破損リスクが上がったりするため、無理に工事を進めると逆に品質が下がってしまうのです。だから冬は、工事が「止まる」。
これは自然の摂理なので誰の責任でもありません。

しかし、これが行政の世界ではとんでもなく厄介な問題になります。
なぜか。
工事が途中のまま冬を迎えると、その後の工程が翌年の予算に“丸ごと”跨ってしまうからです。

たとえば、10月に着工した工事が順調に進んでいたとしても、11月に気温が下がった時点で強制停止。
そのまま年度末(3月)を迎えれば、工事は事実上「未達成プロジェクト」となり、翌年の予算を確保し直さなければ、続きは一切できません。
これが行政にとってどれほどの地獄かは、経験した人間でなければ分からないでしょう。

年度を跨ぐ=予算を取り直す。ここから地獄が始まる

多くの民間企業であれば、「来年度の工事も含めて契約しておきましょう」とか「今年度はここまで、次年度はこのくらい」と柔軟に対応できます。

しかし、行政では、年度を跨ぐ=お金の枠をゼロから再設定することを意味します。

つまり、

今年度の予算で途中まで工事

冬で停止

翌年度、新たに予算要求

認められなければ続行不可能

これが完全に制度化されているのです。

もちろん、「債務負担行為」「長期継続契約」といった、複数年度にまたがる支出を可能にする制度も存在します。

しかし、これらは主に大型工事や特定の長期契約向けで、通常の道路工事や維持修繕では簡単に使えません。
結果として、多くの案件は“1年度完結”が大前提となり、冬で止まった工事は自動的に翌年度の予算を取り直す必要が出てきます。

膨大な書類作成と承認が必要な「繰越」制度が登場し、担当者の精神をゴリゴリと削る地獄が幕を開けるのです。
現場がどれだけ合理的に動こうとしても、“年度”という絶対的な縛りにより、行政は必ず非効率になります。

そして始まる「予算調整地獄」

冬で止まった工事は、翌年度の予算要求に組み込みます。
しかし、この瞬間から職員の苦しみが始まります。

業者「資材費も人件費も上がってますよ。見積りは当然上がります」

原課(発注側)「そうですよね、理解してます。では予算を積み増します」

予算担当(私の立場)「え?もう業者と話つけたの?予算を増やすって約束したの? ……じゃあ乗せるしかないか……」

財政課「認めません」

財政課の係長「また予算増額?他部署の予算削るからな」

原課「これは“政治家案件”なんですよ」

財政課「……!?……はい、分かりました。見なかったことにします」

ここまできた頃には、職員の誰もが疲弊しているのですが、その中でも最も割を食うのが「予算担当」です。

 なぜなら、業者と話をつけたのは原課であり、財布を握っているのは財政課であり、政治家の意向は絶対であり、調整書類を作るのは予算担当だからです。

私自身、30時間以上かけて作った資料が“政治家案件一言”でひっくり返るのを何度も経験しました。
努力も合理性も関係ありません。
「制度」「政治」「年度」という三つの壁が、職員の労働を簡単に無意味にします。

なぜこんな非効率が放置されているのか?

理由はシンプルです。

  • 行政の予算制度が“1年単位”で固定されているから
  • 工事は自然条件に左右されるから(特に寒冷地)
  • その二つが絶望的に噛み合っていないから

これだけです。

しかし、この「噛み合っていないことによる非効率」を正面から議論する空気は行政にはありません。

なぜなら、

  • 制度の問題を認めると上司の責任になる
  • 改革するには法制度の見直しが必要でハードルが高い
  • 調整コストが大きすぎて“現場にしわ寄せ”が来る

こうした理由から、現場の職員は黙って「制度に従う」。
結果として、
毎年同じ失敗を繰り返し、毎年同じ地獄が再生産されるのです。

これは、以前紹介した「会議資料を作るための会議を開催」する文化とはまた別次元の非効率文化です。

冬工事ができない地域で「年度末」方式は最悪の組み合わせ

私が在職中、冬工事の停止により工事が年度を跨ぎ、予算調整が発生し、業者との見積り再調整が必要になり、そこに政治の影響が差し込み、さらに財政課が首を縦に振らず……という事態を数え切れないほど見てきました。

寒冷地では冬に工事が止まるのは当然です。
しかし、年度単位でしか予算が認められない仕組みは、これと決定的に相性が悪いのです。

結果として、

  • 工事は遅れる
  • 不要な調整が増える
  • 職員の残業が増える
  • 業者の作業計画も歪む
  • コストも膨らむ

誰も望んでいないのに、誰も止められない非効率の完成です。

制度と気候の不一致が「無駄」を大量生産している

冬で工事が止まるのは自然。
年度ごとに予算が区切られるのは制度。
その二つが絶望的にマッチしないのは、もはや構造的必然です。

職員が怠けているわけでも、業者が悪いわけでもありません。
制度の設計そのものが、この地域の実情と合っていないのです。
そして、その歪みの尻拭いをさせられるのが、現場と予算担当です。
どれだけ真面目に働いても、制度の不備を埋めるための労働が延々と続きます。

「行政は非効率だ」と言われますが、
その非効率は職員の能力ではなく、制度そのものが生んだ宿命なのだと、私は現場で痛感しました。

冬工事ができない地域に“年度末消化方式”は根本的に合わない。
このシンプルな事実を直視しない限り、無駄は永遠に再生産され続けるでしょう。

以上、行政の果てしない非効率についてお知らせいたしました。
何卒よろしくお願い申し上げます。

令和7(2025)年12月9日

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北海道庁生存戦略部
異端企画局
内部是正推進課非公式記録整理係
主事 鈴木邪道
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