【日程調整】会議資料を作るための会議の開催につきまして

北海道庁

関係者各位

いつも大変お世話になっております。
元道庁職員鈴木邪道でございます。
標記の件につきまして、下記のとおりお知らせいたします。

今日もまた始まる“資料生成儀式”

北海道庁で働いていた頃、私がもっとも精神を削られた業務があります。
それが“会議のための会議”そして“その会議のための資料づくり”です。
特に、年度末や議会前の本庁では、職員の多くが 「仕事をしている」のではなく、 「資料を生産している」 だけの状態に陥っていました。
もちろん、どこの組織にも会議はあります。
しかし、道庁の場合は、会議そのものよりも、“会議のための準備作業”が本体化するのが恐ろしいところです。
私は何度も、深夜の蛍光灯の下で、

鈴木邪道
鈴木邪道

なんで俺は誰も読まない資料の文章を5度も書き直しているんだ…?

と自問自答していました。

【第一段階】事前打合せのための“事前資料”づくり

まず、会議を開くためには「事前打合せ」が必要になります。
そして、その打合せのために「事前資料」を作らなければなりません。
ここで既に矛盾が始まっています。

  1. 資料をつくるための会議
  2. その会議のための資料をつくる
  3. その資料を説明するためにまた打合せをする

まさに、資料生成ループの入口です。
私が後輩を持つようになったとき、私は後輩によくこう言っていました。

鈴木邪道
鈴木邪道

道庁の仕事は、RPGでいう“無限に湧く雑魚敵”みたいなものだよ

【第二段階】係長・主幹チェック地獄-“丁寧に”の意味-

ようやく資料が出来たと思っても、そこからが本番です。
上司や係長に提出すると、決まって返ってくるのは、

「もう少し丁寧に書いてくれる?

という非常に抽象的なフィードバックです。

  • 丁寧にって何?
  • 長く書け?
  • 回りくどく書け?
  • 同じことを3行で書くのを5行に増やせ?

実際、私が道庁時代に学んだのは、
丁寧=文章量を増やす
という謎ルールでした。
本来なら「読みやすいように簡潔に」まとめるべきものが、
上司に渡すと必ず長文化するのです。

前例がない構成だからダメ

前例は気にしなくていい

どっちやねん。

この“上司ごとの宗派の違い”が、私たち若手職員を最も困らせました。

【第三段階】修正 → 再修正 → 微修正 → 追修正

ここから始まるのが、深夜まで続く無限修正ロードです。

  • 語尾を「〜である」に統一して
  • ここは改行して
  • いや、やっぱり一文にしていいわ
  • 箇条書きは3つにして
  • いや、やっぱり5つに戻して
  • この文の“ニュアンスが”微妙だから修正して
  • 前例に倣って表現を変えて
  • いや、前例に倣いすぎても怒られるからバランスよく

そして…

  • 「文書事務の手引き」読んで作った?

厄介なのが、この「文書事務の手引き」を巡る“宗派の違い”です。
ごくまれに手引きの条文番号まで暗唱している原理主義者タイプの職員がいて、

A
A

この表現は手引きp.47の記載と違う

段落番号の付け方は例示1を参照

などと、こちらの気力を削ぐほど細かい指摘を入れてきます。
一方で、手引きなんてろくに読んだこともないのに、

B
B

この辺り、もっと行政文書っぽくしようか
何となく語感が弱いね

と“雰囲気だけで”修正を入れてくる上司も一定数います。
そして最終的には、すべてをひっくり返す上司が登場します。

これ、やっぱり最初の案のほうが良かったね

と言いながら、数時間・数十時間かけて積み上げた修正作業を一掃するのです。
私は、何度もこう感じました。

鈴木邪道
鈴木邪道

内容なんてどうでもよくて、上司の“気分”に合わせて作文をしているだけでは?

しかし、それを言うと

クソ
クソ

鈴木くん、君はいつまで学生気分でいるんだい。甘いんじゃないのか

と言われます。
※流石にこんなこと言ってきたのはモンスター職員で有名なあのパイセンだけでしたが。

なお、尊敬できない先輩や上司はいましたが、尊敬できる先輩や上司もたくさんいました。こちらについては、過去に記事にしています。

【第四段階】確認会議-もはや読む人ゼロ-

数日かけて修正した資料を持って、ようやく「確認会議」が開かれます。
しかし、ここで新たな地獄が待っています。
誰も資料を事前に読んでいない

  • 会議の冒頭で、全員が初めて資料を開く音がする
  • 上司が資料を読みながら「ここ変えたほうがよくない?」と言い出す(あなたチェックしてたよね?)
  • 前日に徹夜して直した部分が、一瞬でひっくり返る(あなたチェックしてたよね?)

何かを言いたくなる気持ちを飲み込みながら、私は黙ってメモを取り続けました

【第五段階】そして本番の会議で誰も資料を見ていない

地獄のような工程をくぐり抜けて、ついに「本番の会議」。
ここが最もシュールです。
誰も資料を読んでいない

  • 自分宛ての電話がかかって来ればすぐさま離脱(そして戻ってこない)
  • 隣の席の管理職はウトウト
  • 議論らしい議論は生まれない
鈴木邪道
鈴木邪道

この資料、俺が何十時間もかけて作った意味どこ?

資料を作るだけ作らせて、本番で見るのは上澄みだけ。
しかも結論は最初から決まっている場合すらある。
こうなると、資料とは何なのか?

  • 説明するための“フォーマット”
  • 仕事をした”証拠物件
  • 会議を開くための“祭具”

私にはもはや、
資料とは、組織が安心するための護符のようなもの
に見えました。

資料が増えるのに、情報は増えないというパラドックス

道庁の資料は例外なく分厚くなります。
しかし、分厚くなればなるほど、中身は薄くなることが多いのです。
理由は簡単です。

  1. 上司が「丁寧に」と言う
  2. 丁寧=ページ数が増える
  3. ページ数が増える=読む人が減る
  4. 読む人が減るから「説明用の資料」が必要になる
  5. 説明資料の説明会議が生まれる

つまり、
資料が増えると、資料を読む会議と資料を説明する資料が増える
という悪魔の循環が生まれるのです。
このループが止まらない限り、道庁における生産性向上は永遠に訪れないでしょう。

北海道庁の最大の産業は何か

私は退職して数年経った今でも、たまに思い返します。
あれほどの労力をかけて作った資料は、誰のために存在していたのか?

  • 住民のため?
  • 議会のため?
  • 政策のため?

いいえ、違います。
資料とは、道庁という巨大組織自身が“安心するための儀式”だったのです。

  • だから、誰も読まなくてもいい。
  • だから、内容が薄くてもいい。
  • だから、同じ資料を5回作り直すことも平然と行われる。

もし「北海道庁の主力産業は何ですか?」と聞かれたら、
私は迷わずこう答えます。

鈴木邪道
鈴木邪道

北海道庁の最大の産業は、“資料生産業”でございます。

以上、会議のための会議、そのまた会議についてについてお知らせいたしました。
何卒よろしくお願い申し上げます。

令和7(2025)年12月3日

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北海道庁生存戦略部
異端企画局
内部是正推進課非公式記録整理係
主事 鈴木邪道
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