追記(2026年9月)
本記事は2025年12月12日に、北海道庁の庁舎内に掲示されていた各種ポスターや案内を見て感じたことをもとに執筆したものです。実名での発信へ移行するにあたり、当時の問題意識を残しつつ、断定的な表現等を整理し、行政広報と情報設計という観点から内容を修正しています。
関係者各位
いつも大変お世話になっております。
元道庁職員の白川部けいたでございます。
標記の件につきまして、下記のとおりお知らせいたします。
なぜ庁舎にはこんなに掲示物が多いのか
役所の庁舎を歩いていると、さまざまな掲示物が目に入ります。
防災、交通安全、ハラスメント防止、個人情報保護、イベント案内、各種キャンペーン。行政が取り扱う分野が広い以上、庁舎内に多様な情報が掲示されること自体は自然なことです。
北海道庁で働いていた頃も、廊下やエレベーター前、階段付近、執務室などに数多くの掲示物がありました。
一つひとつを見れば、どれも掲示する理由があります。
しかし、私が次第に疑問に思うようになったのは、個々の掲示物の内容ではなく、その「総量」でした。
それぞれの担当部署は、自分たちが所管する情報を確実に周知したい。その判断を積み重ねていけば、庁舎全体の掲示物は自然に増えていきます。
つまり、誰かが意図的に掲示物を増やしているというより、各部署がそれぞれ合理的に行動した結果として、全体では情報量が過剰になっていくのではないかと感じました。
「全部重要」は、結果として何も目立たなくなる
掲示物が増えると、もう一つ問題が起こります。
重要な情報と、日常的なお知らせの違いが見えにくくなることです。
毎日同じ廊下を歩き、同じ掲示板を見るうちに、そこに何が貼られているのかを意識しなくなっていきます。
少なくとも私自身、勤務していた頃に毎日目にしていたはずの掲示物について、今となってはほとんど思い出せません。
これは掲示物の内容が重要ではなかったという意味ではありません。
情報量が多すぎることで、視界に入っていても認識されなくなっていたのだと思います。
行政に限らず、すべての情報を同じ強さで発信すると、かえって本当に重要な情報が埋もれます。
防災上の緊急情報とイベント案内が同じような大きさで並んでいれば、見る側が自分で重要度を判断しなければなりません。
「伝えたい情報が多い」ことと、「情報が伝わる」ことは、同じではありません。
各部署の合理性が、全体では情報過多を生む
行政組織では、担当分野ごとに所管部署が分かれています。
防災は防災、交通安全は交通安全、人事は人事、情報管理は情報管理というように、それぞれの部署が自分の責任範囲で周知を行います。
担当課からすれば、「この情報は周知しておく必要がある」という判断は合理的です。
問題は、それぞれが個別に正しい判断をしても、庁舎全体を見たときに情報量が適切になるとは限らないことです。
これは、行政組織でよく起こる「部分最適と全体最適」の問題に近いと思います。
各部署が自分の仕事をきちんと進めれば進めるほど、全体としては掲示物が増え、重要な情報が埋もれてしまう。
当時、古い掲示物や似た内容の案内が並んでいる壁を見ながら、私は半ば冗談で「行政文化の地層みたいだな」と思ったことがありました。
今振り返ると、その「地層」は単なる整理不足というより、組織ごとに発信された情報が積み重なった結果だったのだと思います。
「貼ったか」ではなく「伝わったか」
掲示物について考えるとき、最も重要なのは「掲示したかどうか」ではなく、「必要な相手に情報が届いたかどうか」です。
「掲示した」という事実は確認しやすいものです。
一方で、その掲示物が実際に読まれたのか、内容が理解されたのか、その後の行動が変わったのかを測るのは簡単ではありません。
政策評価の言葉を借りるなら、掲示したことは「アウトプット」であり、情報が届いて行動につながったかは「アウトカム」です。
行政では、手続として確認しやすいアウトプットが管理の中心になりやすい場面があります。
しかし、注意喚起や広報の目的は、紙を貼ることそのものではありません。
ハラスメント防止であれば相談先やルールを知ってもらうこと、交通安全であれば実際の行動を変えてもらうこと、防災であれば必要な時に正しい情報を思い出してもらうことが目的です。
そう考えると、「掲示したから周知した」と考えるだけでは不十分です。
何を、誰に、どの方法で伝えるのが最も効果的なのか。そこまで含めて初めて、行政広報になるのだと思います。
必要なのは電子化より「情報設計」
では、庁舎の掲示物をすべてデジタルサイネージに変えれば解決するのでしょうか。
私は、そう単純ではないと思います。
20枚の紙のポスターを20枚のデジタル画像に置き換えて順番に表示しても、情報量そのものが減らなければ、結局は見てもらえない可能性があります。
必要なのは、紙かデジタルかという媒体の違いよりも、「情報設計」です。
どの情報を優先するのか。
来庁者向けと職員向けをどう分けるのか。
似た内容をまとめられないか。
緊急性の高い情報をどこに置くのか。
掲示場所や媒体の特性に応じて、伝える情報量をどこまで絞るのか。
こうした判断を積み重ねた方が、単純に掲示物を増やすよりも効果的だと思います。
行政広報は、情報をたくさん出すことではありません。
必要な情報を、必要な相手に、理解できる形で届けることです。
これは庁舎のポスターだけでなく、行政のホームページ、SNS、広報誌、そして政策そのものを市民へ説明するときにも共通する考え方です。
「伝えた」と「伝わった」は違う。
庁舎の壁一面に並んでいた掲示物を思い返すと、その当たり前のことを改めて考えさせられます。
以上、庁舎の掲示物が本当に読まれているのかについてお知らせいたしました。
何卒よろしくお願い申し上げます。
令和7(2025)年12月12日
※この記事は、元道庁職員としての個人的体験と見解に基づいています。
行政・公務員の世界に関心のある方の参考になれば幸いです。



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