【考察】なぜ道職員は質問にまっすぐ答えないのか

行政組織・公務員

関係者各位

いつも大変お世話になっております。
元道庁職員の白川部けいたでございます。

標記の件につきまして、下記のとおり考察いたします。

2か月越しに、読者からの質問に回答します

先日、ブログの問い合わせフォームを通じて、北海道庁の職員のコミュニケーション能力に関する質問をいただきました。内容を整理すると、大きく2点です。

① 仕事で質問しても、聞いたことから斜めにずれた回答が返ってくるのは、明言を避ける習慣や自己防衛によるものなのでしょうか。私生活でも同じなのでしょうか。
② 質問の仕方や相談の手段を変えても、求める回答が返ってこないのはなぜなのでしょうか。

お問い合わせをいただいたのは、およそ2か月前です。回答までに時間がかかってしまい、申し訳ありません。これでは「道職員はまっすぐ答えない」と論じる前に、「元道職員もなかなか答えないじゃないか」と突っ込まれそうです。

先に結論を申し上げますと、仕事での受け答えと私生活での会話は、必ずしも同じではありません。また、質問に正面から答えないように見える理由には、行政組織ならではの事情と、職員本人の理解力・説明力の問題の両方が考えられます。ただし、実際のやり取りを見ていないため、今回の相手方がどれに当たるかは判断できません。

以下、元道庁職員としての経験を踏まえ、少し考察してみます。

行政組織には「答え方の作法」があります

行政職員が外部の方へ説明するとき、必ずしも自分の判断だけで回答できるわけではありません。所管はどこか、法令や要綱ではどうなっているか、過去の説明との整合性は取れているか、自分の発言が組織の公式見解として受け取られないか。こうした事情を確認しながら、言葉を選ぶことになります。

この慎重さ自体は、決して悪いものではありません。税金で運営される組織が、担当者の思いつきで約束したり、人によって違う説明をしたりしては困ります。行政の説明に統一性や正確さが求められるのは当然です。

ただし、ここに落とし穴があります。組織にとって「問題のない回答」と、質問者にとって「知りたかったことが分かる回答」は、必ずしも一致しないからです。

例えば、「この件はいつ決まるのですか」と聞かれて、「関係部署と連携し、適切に対応してまいります」と答えたとしましょう。いかにも行政らしい、立派な文章に見えます。しかし、質問者が知りたいのは決定時期です。現時点で未定なら、「まだ決まっていません」と説明した方が、よほど話が早いのではないでしょうか。

もちろん、予定が確定していない理由や、見通しを示せない事情がある場合もあります。それなら、その事情を説明すればよいのです。ところが、余計なことを言わない訓練ばかり積んでいると、質問に答えることよりも、突っ込まれない回答を作ることが目的になりかねません。

回答文は完成しました。しかし、疑問は一つも解決していない。そんな奇妙な事態が生まれます。

もっとも、これをもって「道職員はみんなそうだ」と結論付けるつもりはありません。道庁には多種多様な仕事があり、丁寧に説明する職員も大勢います。あくまで、組織の仕組みとして起こり得る問題だと考えています。

「答えられない」「答えたくない」「理解していない」は別物です

質問に対する「斜めの回答」も、ひとまとめにして考えるべきではありません。大きく次の3つに分けて考えます。

答えられない

担当外の案件であったり、正式な決定前であったり、個人情報に関わることであったりして、答えを持っていない、あるいは答える権限がない場合です。これはコミュニケーション能力の問題とは限りません。しかし、説明できる範囲で「なぜ答えられないのか」「どこに確認すればよいのか」を示す余地はあるはずです。

答えたくない

一定の説明は可能なのに、言質を取られることや、その後の苦情・追加対応などを恐れて、一般論に逃げてしまう場合です。仮にこうした姿勢があるとすれば、組織防衛が質問者の疑問解消に優先していることになります。「適切に対応します」という言葉は「(私の責任にならないよう)適切に対応します」になっているのでしょう。

質問を理解していない

相手が何を尋ね、何を判断したいのかを捉えられていない場合です。制度の説明を長々と続けたものの、相手が聞きたいのは「結局、私の場合はどうなるのですか」という一点だった、という場面は想像しやすいでしょう。これは組織の防御本能というより、本人の聞く力や説明する能力の問題です。

実際には、これらが重なっていることもあるでしょう。また、質問する側と回答する側で、言葉の意味や前提が食い違っている場合もあります。今回の問い合わせだけで、特定の道職員が意図的に回答を避けていると判断することはできません。

それでも、少なくとも「分からないことを分からないと言う」のは重要だと思います。分かったふりをして周辺事情を並べるより、答えられない理由を簡潔に説明した方が、相手の時間を無駄にしません。

相手の時間を無意味に奪うことほど失礼なことはありません。

では、プライベートでは普通に話せるのか

お問い合わせの中で、特に面白いと感じたのがこの点です。仕事で歯切れの悪い回答をする人が、友人や家族との会話でも同じように話しているとは限りません。業務としての説明と、気心の知れた相手との雑談では、求められる役割が違うからです。

もちろん、仕事上の癖が私生活ににじみ出る可能性はあります。「断言しない」「まず無難な表現を選ぶ」という習慣が身についている人もいるかもしれません。一方で、仕事では慎重でも、私生活では率直で冗談好きな人もいるでしょう。そこは個人差が大きく、職業だけでは判断できません。

また、「コミュニケーション能力」という言葉自体が、少々大雑把です。庁内での調整や根回しが得意な人が、外部の方に制度を分かりやすく説明するのも得意とは限りません。逆に、組織内の駆け引きは苦手でも、相談者の話を丁寧に聞き、問題を整理することに長けた人もいます。

私自身、道庁を退職して民間企業で働いたことで、説明の意味を改めて考えるようになりました。民間では、価格や納期などを説明しても、取引先が判断できなければ話が前に進みません。もっとも、相手の質問を理解せず、自分が説明したいことだけ話す人は民間にも地域にもどこにでもいます。役所だけの問題ではないのです。

結論、人による。

「回答した」と「伝わった」は違います

行政にとって、問い合わせへの回答は一件の事務処理でもあります。相談を受け、資料を確認し、必要であれば上司に相談して返事を出す。記録上は、そこで「回答済み」となることもあるでしょう。正直、顧客満足度は重視されていないです。

しかし、質問した側からすれば、知りたいことが分からなければ何も終わっていません。行政の仕事が一件片付くことと、市民の疑問が解消することは、別の話です。

そこで私が大事だと考えているのは、まず結論を示すことです。答えられるなら答える。答えられないなら、その理由を説明する。担当が違うなら確認先を案内して概略を引継ぎする。質問の意図が分からないなら、説明を始める前に聞き返す。この程度の工夫でも、すれ違いは相当に減らせるはずです。

ただし、回答する側だけに責任を押し付けるつもりもありません。質問する側も、知りたい結論や前提をできるだけ明確にした方が、話は通じやすくなります。大切なのは、互いに「何について知りたいのか」「何について答えようとしているのか」を確かめることではないでしょうか。

今回のお問い合わせに戻ります。道職員から斜めの回答が返ってくるのは、防御本能のせいなのか、それとも説明力の問題なのか。具体的な場面を見ない限り、断定はできません。しかし、「行政には事情があるから仕方がない」の一言で片付けるのも、違うと思います。

公務員には、公務員の立場ゆえに答えられないことがあります。だからこそ、答えられる範囲では率直に、答えられないときにはその理由を誠実に説明してほしいものです。

…と、ここまで偉そうに書いておきながら、私自身がお問い合わせへの回答に2か月も要しています。「迅速かつ適切に対応します」という決まり文句で済ませず、今回はこれをもって回答とさせていただきます。

以上、何卒よろしくお願い申し上げます。

令和8年10月12日

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