関係者各位
いつも大変お世話になっております。
元道庁職員の白川部けいたでございます。
標記の件につきまして、下記のとおり考察いたします。
北区役所の検討会議から、睡眠を考える
現在、私は札幌市北区役所が主催する「若い世代と作る健康コンテンツ作成検討会議」に参加しています。
30歳になる私が若いのかと言う議論の余地はありますが、若い世代(特に学生層)に健康づくりへの関心を持ってもらうため、どのような内容を、どのように伝えるかを考える取組です。今回のメインテーマは「睡眠」です。
睡眠というと、早寝早起き、寝る前にスマートフォンを見ない、といった生活習慣の話になりがちです。もちろん、それらも大事でしょう。しかし、私がこのテーマに関心を持ったのは、少し別の理由からです。そもそも私たちは、十分な睡眠時間を確保できる生活を送っているのでしょうか。
仕事を終えて帰宅し、食事や家事を済ませたら、もう夜も遅い。冬の札幌なら、そこに雪かきが加わることもあります。「しっかり眠りましょう」と言われても、眠るための時間そのものが足りなければ、なかなか難しい話です。
そこで今回は、検討会議の具体的な審議内容には立ち入らず、札幌市が公表している健康づくり基本計画「健康さっぽろ21(第三次)」を手掛かりに、睡眠を個人の習慣と社会環境の両面から考えてみます。
「健康さっぽろ21」に見る札幌市民の睡眠
「健康さっぽろ21」は、札幌市の健康づくりに関する基本計画です。最初の計画は2002年に策定され、2014年の第二次計画を経て、2025年3月に第三次計画が策定されました。第三次計画の対象期間は2025年度から2036年度までの12年間です。
計画では、栄養・食生活、身体活動・運動、休養、飲酒、喫煙などを幅広く扱っています。その中で、睡眠は「休養」の項目に位置付けられています。私が注目したのは、「睡眠で休養がとれている人の割合」という成果指標です。
計画に掲載された策定時の現状値は、全体で69.2%、20~59歳で60.9%、60歳以上で79.7%となっています。とりわけ20~59歳では、睡眠によって十分な休養がとれていると答えた人が6割程度にとどまります。札幌市はこの割合を2036年度までに増やすことを目標にしています。
ここで注意したいのは、この数値が「睡眠時間」ではなく、「睡眠で休養がとれているか」という実感を尋ねたものだという点です。6割しか眠っていないという意味でも、残る4割が医学的な不眠症だという意味でもありません。睡眠時間と、起きたときに休まったと感じられるかは、似ているようで異なる問題です。
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」は、成人について、個人差を前提に6時間以上を目安として必要な睡眠時間を確保することや、睡眠による休養感を高めることを推奨しています。睡眠の質を高める工夫は重要ですが、その前提として、眠る時間をどう捻出するかという問題が残ります。

「眠る時間」は、どこから生まれるのか
1日は誰にとっても24時間です。ここから仕事、通勤、食事、入浴、家事、育児、介護といった時間を差し引くと、自分の裁量で使える時間(所謂“可処分時間”)はどれだけ残るのでしょうか

「睡眠を優先しましょう」という助言は正しいのでしょう。しかし、その睡眠を増やすために何を削るのか。趣味や交流の時間でしょうか。それとも家事でしょうか。育児や介護をしている人にとっては、そもそも削れる時間がないかもしれません。睡眠不足を、自己管理の一言だけで説明するのは無理があると思います。
そこで紹介したいのが「勤務間インターバル制度」です。これは、ある日の終業時刻から翌日の始業時刻までに、一定時間以上の休息を確保する仕組みです。例えば、仮に11時間のインターバルを設けていれば、午後11時に仕事が終わった場合、翌日の始業を午前10時以降にするといった運用が考えられます。
日本では2019年4月から、事業主に対して勤務間インターバル制度の導入が努力義務とされています。ただし、すべての企業に一律11時間の休息を義務付ける制度になっているわけではありません。設定する時間や運用には違いがあり、制度を導入しただけで十分な睡眠が保証されるわけでもありません。
例えば、11時間の休息が確保されても、その中には通勤、夕食、入浴、家事、翌日の準備などが含まれます。それでも、仕事の終了時刻と次の始業時刻の間に一定の余地を設けるという発想を社会的に共通認識にしていくことには意味があると思います。単に「早く寝ましょう」と呼びかけるのではなく、「早く寝られる生活をどうつくるか」を制度化していくということだからです。
雪国の「可処分時間」は少ないのではないか
ここで、北海道ならではの仮説を一つ挙げてみます。積雪の多い地域では、冬の雪かきや雪処理に時間を使う分、ほかの地域に比べて可処分時間が少なくなるのではないでしょうか。
札幌市は道路の雪を脇へ寄せる「かき分け除雪」を行い、玄関や車庫の前に残った雪の処理については、各家庭に協力を求めています。つまり、道路除雪を行政が行っていても、住民自身が雪を処理する作業は残ります。
札幌市が2025年度に実施した市民意識調査では、除雪車によって玄関前や車庫前に寄せられた雪の処理について、回答者の59.0%が負担を感じていることが分かりました。
しかし、私が調べた範囲では、札幌市民が実際に雪かきに何時間を費やしているのか、その実態を示す市全体の統計は見当たりませんでした。雪かきの身体的・金銭的な負担だけではなく、時間的な負担にも目を向ける必要があるのではないでしょうか。
朝の出勤前に雪をかく。帰宅後にも雪を寄せる。大雪の日には、予定していた家事や外出を後回しにする。これらは、雪国で暮らす人には馴染みのある光景ではないでしょうか。仮に雪かきに1日30分かかる日があれば、その30分をほかの行動に使うことはできません。もちろん、運動としての側面もありますが、好きな時間に好きなだけ行える運動とは限りません。
もっとも、「札幌市民は雪のために睡眠時間が短い」と結論付ける資料を、私は現時点で示せません。戸建て住宅か集合住宅か、民間排雪サービスを利用しているか、家族構成や年齢はどうかによって、負担は大きく異なるはずです。仕事の繁忙期や通勤時間、冬の交通の遅れなども考慮しなければなりません。
この仮説を検証するなら、雪のある季節とない季節で、雪処理に使った時間、通勤時間、睡眠時間、睡眠による休養感を比較する方法が考えられます。さらに、住宅形態や年代別に分ければ、冬の生活負担が誰に集中しているのかも見えてくるでしょう。
札幌の除排雪政策を考えるとき、予算、作業量、道路の幅だけではなく、「市民が雪と付き合うために使っている時間」も、重要な指標になり得ると思います。
健康づくりは、個人の努力だけで完結しません
「健康さっぽろ21(第三次)」では、睡眠による休養を十分にとれている人を増やすため、休養の必要性に関する情報提供や普及啓発などを取組として掲げています。情報を届けることには意味があります。睡眠について誤解していたことを知り、生活習慣を見直すきっかけになるかもしれません。
一方で、情報だけでは解決できない問題もあります。長時間労働、通勤、育児・介護、そして冬の雪処理。健康に過ごすための時間を確保できるかどうかは、暮らしの条件に左右されます。行政が企業の働き方を一方的に決められるわけではありませんが、健康政策を考えるとき、こうした生活環境を見落とすべきではないでしょう。
睡眠の啓発動画を見る時間すら惜しいほど忙しい人に、「睡眠を大切にしましょう」と伝える。その言葉自体は正しくても、どこか皮肉な話です。私は、健康情報の発信と同時に、健康的な生活を選びやすくする社会の仕組みを考える必要があると思います。
現在参加している北区の検討会議でも、睡眠という身近なテーマを、若い世代にどう伝えるかが課題になっています。会議での個別の発言や未公表の制作内容は紹介しませんが、こうした市民参加の場が、行政の情報発信を実際の生活感覚に近づける機会になることを期待しています。
札幌市民は十分に眠れているのか。計画の数字だけでは、すべての答えは出ません。しかし、睡眠による休養感が十分でない人が相当数いることは読み取れます。そこから一歩進んで、「眠り方」だけでなく「眠る時間を持てる暮らし方」を考えること。それが、雪国・札幌の健康づくりを考える上でも、大切な視点ではないでしょうか。
以上、札幌市民は十分に眠れているのかについて考察しました。何卒よろしくお願い申し上げます。
令和8年10月31日
【参考資料・リンク】

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