関係者各位
いつも大変お世話になっております。
元道庁職員の振興局太郎でございます。
標記の件につきまして、下記のとおりお知らせいたします。
行政の無駄点検にもAIの時代が来た
政府は、国の事業の効果や予算執行を点検する「行政事業レビュー」に、人工知能(AI)を活用する実証実験を始めます。
厚生労働省や国土交通省など15府省庁が参加し、対象となる約6千事業のうち、500~600事業のレビューシートをAIに分析させるとのことです。

行政事業レビューでは、事業ごとに目的、予算、執行状況、成果目標、実績などを整理したレビューシートを作成し、事業の改善や見直しにつなげています。
制度の趣旨は理解できます。
しかし、約6千事業分の資料を職員が作成し、それを別の職員や有識者が読み込み、問題点を探し出す作業には、相当な時間が必要です。
もちろん、レビューシートは公開され、誰でも読める状態になっています。しかし、作成に投入される労力に比べて、実際にどれほど読まれ、政策改善に活用されているのかは疑問が残ります。
行政の無駄を点検するために作成する資料が膨大となり、資料作成そのものが職員の負担になる。
少々皮肉ですが、行政事業レビュー自体が「行政の無駄」と呼ばれかねない状況です。
その意味で、レビューシートの分析や作成補助にAIを利用することは、極めて自然な流れでしょう。
レビューシート点検はAIと相性が良い
行政文書は膨大で煩雑ですが、基本的には一定の論理と様式に沿って作成されています。
レビューシートも、事業目的、予算額、執行率、成果指標、実績、自己評価などが定型的に並んでいます。
人間が読むには退屈でも、AIにとっては比較的処理しやすい資料です。
過年度の記載内容と比較し、

それ、要するに昨年も同じことを書いていますよね。
と指摘することもできるでしょう。
類似事業との重複、成果指標の曖昧さ、目標と実績の不整合、執行率の異常、説明文章の使い回しなども、人間だけで点検するより発見しやすくなる可能性があります。
そもそも、レビューシートは美しい行政文書を完成させるために作るものではありません。
レビュー結果を次年度の予算編成や事業改善につなげることが目的です。資料を作る過程に時間を割くより、AIに作業を補助させ、浮いた時間を政策立案や現場確認に使う方が制度の趣旨にも合っています。
AI活用によって、これまで「作っただけ」で終わっていた資料が、実際に読まれ、比較され、再利用されるようになるなら、行政改革として歓迎すべきでしょう。
しかしAIは「無駄」を最終判断できない
一方で、AIが不自然な記載や曖昧な成果指標を見つけられることと、事業を「無駄」と判断することは別問題です。
例えば、受益者が少なく、費用対効果が低く見える事業があります。
地方部の公共交通、障害福祉、防災施設、文化財保護、少人数の児童生徒に対する教育などは、単純な数字だけを見れば効率が悪いと判定されるかもしれません。
しかし、行政は利益を最大化する企業ではありません。
法令上実施しなければならない事業もあれば、採算が取れなくても住民生活を維持するために必要な事業もあります。短期的には成果が見えなくても、災害や事故に備えて継続しなければならない仕事もあります。
行政における「無駄」とは、単に費用対効果の低いものではありません。
法的義務、公平性、地域事情、政策目的、将来リスクを踏まえ、人間が判断しなければならないものです。
行政改革というと、議員定数の削減、給与の削減、不採算施設の廃止といった、分かりやすい話に寄りがちです。
しかし、本当に必要なのは、何を削るかだけではありません。
何を維持し、何を見直し、限られた人員と予算をどこへ振り向けるかを選ぶことです。AIは判断材料を提示できますが、その選択を肩代わりすることはできません。
監査委員や会計検査院が不要にならない理由
では、AIが行政の点検を行えるようになれば、監査委員や会計検査院は不要になるのでしょうか。
会計検査院は、国の収入支出や国有財産などを検査する憲法上の独立機関です。一方、地方自治体の監査委員は、自治体の財務や事業執行が適正に行われているかを監査します。
結論から言えば、不要にはなりません。
AIは資料上の矛盾を見つけられても、責任を負うことはできません。
現地へ出向いて設備や帳簿を確認することも、関係者に説明を求めることも、法令上の権限に基づいて是正を要求することもできません。
また、行政機関がAIに決裁権を委ねる制度も、現時点では存在しません。AIの指摘を採用するか、採用しないかは、最終的に職員と組織が判断することになります。
さらに、これは本当に滑稽なのですが、おそらくAIを使った点検結果自体も、新たな監査対象になります。
- どのデータを読み込ませたのか。
- 重要な資料が除外されていないか。
- AIの指摘を都合よく採用していないか。
- 誤った回答をそのまま使っていないか。
AIが行政を点検する時代には、「AIを使った点検が適切だったか」を人間が点検しなければなりません。
公務員の世界で言うところの、見事な「屋上屋を架す」状態です。

加えて、AIはデータ化されていない紙の出勤簿やチェック表、現場の書庫に眠る資料を、自分から探しに行くことができません。
未だに紙でしか存在しない行政情報は少なくありません。AIを導入しても、監査や検査が消えるのではなく、その対象と手法が変わるだけなのです。
AIは行政の責任者ではなく、壁打ち相手である
記事では、AIを「壁打ち相手」として活用し、政策担当者の思考を深める効果も期待されていると紹介されています。
この表現は、かなり的確だと思います。
AIは、行政の無駄を自動的に裁く裁判官ではありません。
しかし、職員が見落としていた矛盾を示し、成果指標の弱さを指摘し、別の政策手段を提案する壁打ち相手にはなり得ます。
むしろ公務員こそ、AIへの質問方法や壁打ちの技術を磨くべきでしょう。
行政にAIを導入する流れは、もはや避けられません。実際、既にさまざまな業務で利用が始まっています。
ただし、AIが行政責任まで肩代わりしてくれるわけではありません。
AIが指摘し、職員が自ら考え、組織が判断し、政治が責任を負う。
この順番を間違えないことが、行政DXの最低条件なのではないでしょうか。
以上、AIがあれば会計検査院は不要なのかについてお知らせいたしました。
何卒よろしくお願い申し上げます。
令和8年7月15日
北海道庁生存戦略部
異端企画局
内部是正推進課非公式記録整理係
主事 振興局太郎
この記事は、元道庁職員としての個人的体験と見解に基づいています。
行政・公務員の世界に関心のある方の参考になれば幸いです。


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