関係者各位
いつも大変お世話になっております。
元道庁職員の振興局太郎でございます。
標記の件につきまして、下記のとおりお知らせいたします。
開かれない演説会を告知するという「政治活動」
町中を歩いていると、政治家の顔と名前が大きく掲載されたポスターを見かけます。

よく見ると、隅の方に「市政報告会」「国政報告会」などの演説会名と、開催予定の日時・場所が小さく記載されています。
今回、北海道新聞が実際の開催状況を取材したところ、「開いていない」「ほとんど開いていない」と認める政治家や事務所が複数あったそうです。

なぜ、開催していない演説会の日程をポスターに掲載するのでしょうか。
公職選挙法は、日常的な「政治活動」と、特定の選挙で当選を目的として行う「選挙運動」を区別しています。政治家の氏名と顔写真だけを掲示したポスターは、単なる売名目的の事前運動とみなされる可能性があります。
そこで、演説会の日程を記載し、「政治活動として行う演説会の告知」という体裁を整えるわけです。
さらに、任期満了前6か月になると個人の政治活動用ポスターが規制されるため、選挙が近づくほど地元政治家と党首や著名政治家が並ぶ「2連ポスター」が増えていきます。演説会の告知であると同時に、有名政治家との関係や政党への所属を示す広告にもなっています。
もちろん、実際に開催する予定だった演説会が、急な公務や天候などで中止されることはあるでしょう。問題は、たまたま開催できなかったことではなく、実際の開催よりも、政治家の顔と名前を長期間掲示し続ける効果が前面に出ていることです。
繰り返し目に触れれば、政策を詳しく知らなくても、「見たことがある人」になります。結果として、政治活動用ポスターは単純接触による認知度向上の手段として機能します。
記事には、

有権者もやっていると思っていない

何か言われたら、あくまで“予定だった”と説明すればよい
といった関係者の発言も掲載されています。仮に直ちに処罰されないとしても、開催する意思の乏しい演説会を告知するということは、倫理上許されるのでしょうか。
演説会の告知であるはずのポスターが、実態としては顔と名前を掲示し続けるための道具になっている。公選法の制度趣旨よりも、長年続いてきた選挙実務上の慣行が優先されているのではないでしょうか。
SNS時代だからこそ「政党だけが買える知名度」がある
こうした問題は、紙のポスターだけに限りません。
北海道新聞の別の記事では、選挙をめぐる虚偽情報への対策をSNS事業者に求める法改正が行われる一方、具体的な対応は事業者に委ねられ、罰則も見送られたことが紹介されています。

さらに注目すべきなのが、政党によるインターネット広告です。
公職選挙法では、候補者個人が選挙運動として有料のインターネット広告を掲載することは制限されています。ところが、政党による広告は「政治活動」として認められ、支出できる金額にも明確な上限がありません。
つまり、候補者本人には認められない広告であっても、政党名義であれば大量に配信できるということです。資金力のある政党ほど、動画や画像を繰り返し表示させ、有権者との接触回数を増やすことができます。
ここで問題にしたいのは、ネット広告がどれほど直接得票に結びつくかではありません。
広告を何度も見れば、内容を詳しく読まなくても、党首や候補者の顔、名前、政党名は記憶に残ります。「よく知らない人」から「どこかで見たことのある人」へ変わるだけでも、選挙では一定の意味を持ちます。
ところが、その接触回数を左右するのは、必ずしも本人の地域活動や政策発信の蓄積ではありません。広告予算をどれだけ投じられるか、政党としてどのような制作・配信体制を持っているかによって、表示される頻度は大きく変わります。
ネット上では、候補者個人には認められない知名度の購入が、政党による政治活動という名目で可能になっています。
紙のポスターでは、演説会告知という形式が規制の境界線をつくる。ネット上では、候補者個人か政党かという発信主体の違いが規制の強弱を決める。
有権者から見れば、どちらも政治家の顔と名前を知る機会であることに変わりはありません。それでも公選法は、その実質より「誰が、どの名目で発信したのか」を重視しているのです。
紙とネットに共通する「政治活動」という抜け道
一見すると、街角に貼られた政治活動用ポスターと、SNS上で流れる政党広告は、全く別の問題に見えます。
しかし、両者には共通点があります。
紙の世界では、多数の掲示場所を提供してくれる支援者、有名政治家と並べる政党組織、公職選挙法の運用を熟知したスタッフを持つ側が有利です。ネットの世界でも、広告費、動画や画像の制作体制、政党名義、SNS運用の専門家を持つ側ほど、多くの有権者に情報を届けられます。
そして、どちらも「選挙運動ではなく政治活動である」という説明によって成立しています。
公選法は、誰が、どの名目で発信したかを細かく区別します。
しかし、有権者から見れば、ポスターもネット広告も、政治家の顔や名前を知る機会であることに変わりはありません。
つまり、制度上は政治活動と選挙運動を明確に分けているつもりでも、人間の認知にそのような境界線はありません。
この形式と実態のずれが、資金、組織、知名度をすでに持つ側にとって利用しやすい「抜け道」になっているのではないでしょうか。
新人・無所属はどうやって名前を知ってもらうのか
では、政党の公認も、著名政治家とのつながりも、大量の広告費も持たない新人や無所属の政治家は、どうやって有権者に名前を知ってもらえばよいのでしょうか。
現実的には、地域活動、街頭演説、SNSの通常投稿、ブログ、動画、イベントへの参加、そして人から人への口コミを積み重ねるしかありません。
一度に何万人へ届く政党広告とは異なり、一人ひとりと接点を作る方法です。当然ながら時間も労力もかかります。毎週街頭に立っても、話を聞いてくれる人は限られます。地域行事に参加しても、その場で政治家志望として認識されるとは限りません。SNSで発信しても、広告を使わない投稿が広く表示される保証はありません。
それでも、地域で実際に活動し、政策を考え、自分の言葉で発信していく。新人や無所属が知名度を得るための王道は、結局そこにあるのでしょう。
もちろん、政党所属候補と無所属候補を、完全に同じ条件にするべきだと言いたいわけではありません。
政党を組織し、支持者を集め、資金を蓄え、候補者を育成してきたこと自体も政治活動の成果です。有名政治家と一緒にポスターへ掲載できることや、党の資金で広報できることも、組織に所属することで得られる正当な強みではあります。
しかし、候補者個人には厳しい広告規制を課しながら、政党名義であれば事実上上限なく知名度を購入できる。実態の乏しい演説会告知であっても、政治活動用ポスターとして長期間掲示できる。こうした制度が本当に公平であるかは、改めて考える必要があります。
形式上は、全員に同じ公職選挙法が適用されています。
しかし、同じ規制の下でも、利用できる資金、組織、人材、掲示場所、広告手段には大きな差があります。制度の抜け道を理解し、それを実行できる専門スタッフがいるかどうかも、事実上の参入障壁になっています。
特に地方政治では、この問題を国政と同じように考えてよいのか疑問があります。
国政は政党政治を前提とした制度です。一方、市町村議会では、特定の国政政党に所属せず、地域課題を中心に活動する議員や候補者も重要な役割を担っています。
除排雪、公共交通、学校、福祉、地域施設の維持管理といった課題は、必ずしも国政政党の対立軸だけで整理できるものではありません。
地域政党や無所属に特別な優遇措置を与える必要はありません。しかし、無所属であることが、情報発信の面で過度な不利益にならない制度設計は必要です。
有権者が候補者を比較する前に、そもそも一部の候補者しか認識できないのであれば、選択肢は最初から狭められています。
新人候補に必要なのは、規制をかいくぐる知識ではなく、地域で積み上げてきた活動や政策を、有権者に正当に届けられる機会です。
選挙の公平性は、投票用紙の上で全候補者の名前を同じ大きさで印刷するだけでは実現しません。その名前が投票日までに有権者へ届く過程まで含めて、考え直す必要があるのではないでしょうか。
選挙の公平性を守るのは誰なのか
では、この制度上の歪みを誰が正すのでしょうか。
まず国会には、実態の乏しい演説会告知をどこまで政治活動として認めるのか、政党によるネット広告に支出上限や情報公開を設けるのか、候補者個人と政党との規制差をどう整理するのかを議論する責任があります。
政治家や政党にも、違法と断定されなければ何をしてもよいという姿勢ではなく、自ら政治倫理を守る責任があります。「あくまで予定だった」「逃げ道はいくらでもある」と開き直るのでは、政治への不信を深めるだけです。
選挙管理委員会には捜査権限がなく、個別の行為を直ちに違法認定したり摘発したりすることはできません。
しかし、取締権限がないことと、制度上の問題を把握し、注意喚起し、関係機関へ情報をつなぐ責任がないことは別です。違法性が疑われる事案については、警察や検察が今よりも積極的にに対応すべきでしょう。
SNS事業者にも、広告主、支出額、配信対象、掲載期間、広告の目的などを、有権者が確認できる仕組みが求められます。
もちろん、政治活動への規制は表現の自由との均衡を慎重に考えなければなりません。しかし、実際には開かれない演説会の告知も、上限のない政党ネット広告も、「政治活動」という建前だけで放置してよい問題ではありません。
公選法が守るべきものは、既存政治家の慣行や既得権益ではなく、有権者が多様な選択肢を知り、比較し、判断できる機会なのではないでしょうか。
以上、新人候補はどうやって名前を知ってもらえばよいのかについてお知らせいたしました。
何卒よろしくお願い申し上げます。
令和8年7月26日
北海道庁生存戦略部
異端企画局
内部是正推進課非公式記録整理係
主事 振興局太郎
この記事は、元道庁職員としての個人的体験と見解に基づいています。
行政・公務員の世界に関心のある方の参考になれば幸いです。

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