【考察】転勤制度とネット環境の致命的な噛み合わなさにつきまして

行政組織・公務員

追記(2026年9月)

本記事は2026年1月28日に、北海道庁勤務時代の転勤と引越しを振り返り、通信環境を中心とした生活インフラの問題について執筆したものです。実名での発信へ移行するにあたり、全道異動のある組織で働く職員と家族の生活負担、人事制度と生活インフラの時間軸のズレという観点から内容を整理しています。

関係者各位

いつも大変お世話になっております。
元道庁職員の白川部けいたでございます。

標記の件につきまして、下記のとおりお知らせいたします。

人事異動は一日でも、生活の異動には時間がかかる

官公庁に限らず、広い地域を抱える企業や組織では、転勤によって短期間で生活環境を切り替えることがあります。

私が北海道庁で働いていた当時も、春の異動では正式な赴任までの準備期間が短く、短期間で住居や引越しの手続きを進める必要がありました。

人事上は、ある日付を境に「所属が変わる」という一行の辞令で済みます。

しかし、生活者の側から見れば話はまったく別です。

住居を探す。引越し業者を手配する。電気、ガス、水道、通信、郵便、各種住所変更を進める。車があるなら駐車場も必要です。家族帯同であれば、学校や保育、配偶者の仕事なども関わります。

つまり、人事制度上は一日の異動でも、生活の側では一つの大きなプロジェクトです。

在職中は「そういうもの」と受け止めていましたが、退職後に改めて考えると、人事制度の時間軸と生活再建の時間軸はかなり違っていたと感じます。

現代の引越しは「生活インフラの再構築」

以前の引越しであれば、電気、ガス、水道、郵便などを整えれば、ひとまず生活は始められたかもしれません。

現在は、そこにインターネット環境が加わります。

銀行、証券、各種行政手続、サブスクリプション、本人確認、仕事上の連絡、家族との通信など、生活の多くがネット接続を前提にしています。

固定回線を利用する場合、新居が決まってから工事日程を調整し、開通まで一定の時間がかかることもあります。引越しが集中する時期であれば、希望どおりの日程を確保できるとは限りません。

その意味で、通信環境は「引越してから考えればよい設備」ではなく、住居や電気と同じように、生活開始前から考えておく必要のあるインフラになっています。

転勤制度そのものは以前からあっても、転勤する人を取り巻く生活環境は変わっています。

制度が同じでも、生活側の前提が変われば、職員が感じる負担も変わります。

私自身、固定回線しか考えていなかった

正直に言えば、私自身も在職中は「新居が決まったら固定回線を申し込む」という発想しかほとんど持っていませんでした。

固定回線が開通するまでの数週間だけ、別の通信手段を使うという考え方を真剣に検討した記憶もありません。

今であれば、スマートフォンのテザリング、モバイル回線、ホームルーターなど、固定回線が開通するまでの期間をつなぐ方法はいくつもあります。

もちろん、通信量、速度、料金、利用場所などによって向き不向きがあります。どれか一つが万人にとって正解という話ではありません。

ただ、「固定回線が開通するまでネットなしで耐える」以外にも選択肢があることを知っていれば、転勤直後の生活は少し楽になります。

これは通信環境に限りません。

転勤が多い働き方では、毎回ゼロから生活を組み立て直すのではなく、引越し時に使える選択肢や手続きを事前に知っておくこと自体が、一つの生活防衛になるのだと思います。

「転勤が嫌」の中には生活コストも含まれている

全道異動のある仕事について、「転勤が嫌だ」という言葉を耳にすることがあります。

その理由を、単に「知らない土地へ行きたくない」「札幌を離れたくない」という好みだけで捉えるのは十分ではないと思います。

転勤には、金銭的な費用だけでなく、時間と手続きの負担があります。

住居探し、荷造り、引越し、各種契約変更、住所変更、新しい地域での買い物や通勤経路の把握。家族がいれば、その人数だけ調整事項も増えます。

転居費用について一定の制度的な支援があったとしても、生活者側の負担がゼロになるわけではありません。

いわゆる「引越貧乏」という言葉がありますが、転勤によって失うのはお金だけではありません。

時間、手間、予定を組み直す精神的な負荷も含めて、転勤のコストです。

だからこそ、「転勤を負担に感じる」という声を、単なる地域志向や本人のわがままとして片付けるべきではないと思います。

転勤を求めるなら「転勤しやすい仕組み」も必要

北海道のように広い地域を行政対象とする組織では、さまざまな地域で勤務し、現場を知ることには意味があります。

私自身も、本庁と振興局の両方で働いたことで、それぞれの立場から北海道を見る経験を得ました。

したがって、転勤制度そのものをなくせばよいとは考えていません。

ただ、広域異動を前提とするのであれば、「どこへ異動させるか」だけでなく、「どうすれば無理なく異動できるか」まで考えることも人事政策の一部ではないでしょうか。

内示から赴任までの準備期間、住居に関する情報提供、引越しや各種手続きの案内、家族帯同者が必要とする生活情報など、組織側で負担を減らせる余地はあります。

同時に、職員個人も、通信環境を含めた生活インフラについて複数の選択肢を知っておくことで、急な異動に備えやすくなります。

人事上は一行で済む異動にも、その裏には一人の職員と、その家族の生活があります。

転勤を前提とする組織だからこそ、「転勤すること」を本人任せにせず、「転勤しやすい環境」をどう整えるかまで考えてよいのではないでしょうか。

以上、転勤制度とネット環境の致命的な噛み合わなさについてお知らせいたしました。

何卒よろしくお願い申し上げます。

令和8(2026)年1月28日

※この記事は、元道庁職員としての個人的体験と見解に基づいています。
行政・公務員の世界に関心のある方の参考になれば幸いです。

コメント

  1. ふじ より:

    今度、道庁に大卒区分(小論文型)として入庁することになったのですが、とても参考になりました。

    と申しますのも、私の前職が公務員であり、同じような風土がどこにでもあるのだと分かったからです。

    無論、ブログ著者さまの意見や考えを鵜呑みにするわけではありませんが、現状の社会(民間・公務員など)の構造が、多くはそれに準じていることや、著者さまの視点・理解の仕方が私と近いことから、かなり腑に落ちた次第です。

    私は、そうした「おままごと社会」(全てがそうではありませんが)の中で、馬鹿正直に物事をみないで、むしろ、歪んだ構造の中では異端児こそが良い循環を起こし得る、と捉えてやっていこうと決意が固まりました。

    • 白川部けいた 鈴木 邪道 より:

      コメントありがとうございます。
      また、入庁おめでとうございます。

      ご自身の前職での経験を踏まえたうえで読んでいただき、「腑に落ちた」と感じていただけたことは、書き手として率直にうれしく思います。
      ご指摘のとおり、私の見方や評価がすべて正しいとは考えていませんし、どの組織にも多様な人がいて、良い面もあれば課題もあるのが現実だと思います。

      一方で、「構造」や「空気」が個人の振る舞いや判断に強い影響を与える場面が少なくないのも、また事実だと感じています。
      その意味で、「歪んだ構造の中では異端児こそが循環を生み得る」という捉え方には、私自身も強く共感します。

      新しい環境で大変なことも多いかと思いますが、どうか無理をなさらず、冷静に、したたかに進まれることを願っています。
      今後のご活躍をお祈りします。

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