【検証】なぜ道庁の決裁文書は「存在するのに中身がない」のか

行政組織・公務員

追記(2026年9月)

本記事は2025年12月21日に、北海道庁勤務時代に過去案件の記録を調べた経験をもとに執筆したものです。実名での発信へ移行するにあたり、当時の問題意識を残しつつ、公文書管理・意思決定過程・組織知の継承という観点から内容を修正しています。

関係者各位

いつも大変お世話になっております。
元道庁職員の白川部けいたでございます。

標記の件につきまして、下記のとおりお知らせいたします。

決裁文書はある。でも「なぜ」が分からないことがある

北海道庁で働いていた頃、過去の案件を調べる中で、何度か不思議に感じたことがあります。

最終的な決裁文書は残っている。いつ、どの所属が、どのような処理をしたのかも分かる。ところが、その結論に至るまでに何を比較し、どの情報を重視し、なぜその選択肢を採ったのかまでは、手元の資料だけでは十分に再現できないことがありました。

もちろん、これは「文書が存在しない」という話ではありません。正式な意思決定として必要な記録は残っています。

私が疑問に思ったのは、その記録を数年後の職員が読み返したときに、当時の判断過程まで追えるのかということでした。

行政は異動の多い組織です。担当者が替わっても仕事は続きます。だからこそ、結論だけでなく「なぜそう判断したのか」が次の担当者へ引き継がれることには大きな意味があります。

そもそも決裁文書は何を記録するものなのか

行政の決裁文書には、組織として正式に意思決定した内容を記録する役割があります。

北海道にも公文書管理のルールがあり、完結した公文書は保存期間に応じて管理されます。また、政策立案や事務・事業の実施方針に影響する打合せや外部との折衝についても、必要な記録を作成し、意思決定過程を後から跡付け、検証できるようにする考え方が示されています。

つまり、制度上は「結果だけ残せばよい」という考え方ではありません。

一方で、実務上の決裁文書は、最終的に何を決めるかを明確にすることが中心になります。限られた紙面や時間の中で、検討したすべての選択肢や、途中のやり取りを本文へ盛り込むことは現実的ではありません。

ここに、「正式な意思決定の記録」と「判断過程を後から再現できる記録」の違いがあります。

結論の記録と、判断過程の記録は違う

決裁文書を読めば、最終的に何をしたのかは分かります。

しかし、同じ結論でも、そこへ至る理由は複数あり得ます。

複数案を比較した結果なのか。法令上ほかの選択肢がなかったのか。現場から得た情報を重視したのか。時間的制約の中で最も実行可能な方法を選んだのか。

こうした判断の背景が残っていれば、後任者は過去の案件を単なる「前例」としてではなく、条件付きの判断事例として利用できます。

逆に、結論だけが残れば、「前回もこうしたから今回も同じでよい」という運用になりやすくなります。

行政に必要なのは、過去の判断を無条件に踏襲することではなく、その判断がどのような条件の下で行われたのかを理解した上で、現在の状況に当てはめ直すことだと思います。

緊急対応と「記録を残す時間」の難しさ

この問題が特に難しいのが、緊急性の高い仕事です。

災害対応などでは、正式な文書を整えてから動いていては間に合わないことがあります。電話や口頭で情報を集め、手元のメモを見ながら判断し、まず必要な対応を進める。これは当然のことです。

問題は、その場で電話やメモを使うことではありません。

状況が落ち着いた後に、どの情報を基に、どの時点で、なぜその判断をしたのかを、どこまで組織の記録へ戻せるかです。

緊急時の判断過程は、その場にいた職員にとっては鮮明でも、数年後の担当者には分かりません。

だからこそ、重要な判断については、後から検証できる形へ整理する工程が必要です。

「まず動くこと」と「後から記録すること」は対立するものではなく、どちらも行政の継続性に必要な仕事なのだと思います。

個人の経験を「組織の記憶」に変えられるか

行政実務では、ベテラン職員の経験知が大きな力になります。

過去に似た案件を経験している。関係機関との調整の勘所を知っている。どの順番で確認すれば仕事が進むか分かっている。こうした知識は、マニュアルだけでは簡単に身につきません。

一方で、その知識が個人の記憶だけに残れば、異動や退職とともに組織から失われます。

私が振興局で過去案件を調べた際に感じた難しさも、突き詰めればこの問題でした。

誰かが知っていたことと、組織として知っていることは同じではありません。

行政の人事異動には、幅広い経験を積ませるという利点があります。しかし異動が多いからこそ、経験知を文書や引継ぎ、データベースなどへ落とし込み、次の担当者が利用できる形へ変換する仕組みが必要になります。

これは単なる文書管理ではなく、ナレッジマネジメントの問題でもあります。

文書は「保存するため」ではなく「次に使うため」に

公文書を残す目的は、後から誰かの責任を追及することだけではありません。

過去の行政判断を検証し、同じような状況が起きたときに、より良い判断をするための材料にすることにも意味があります。

正式な決裁文書を適切に保存することは、その第一歩です。

そのうえで、「なぜこの判断をしたのか」「他にどのような選択肢があったのか」「当時どの情報を重視したのか」まで、必要な範囲で後から追える状態にできれば、文書は単なる記録から組織の知識へ変わります。

すべての打合せや電話を逐一記録すればよいという話ではありません。記録を作ること自体が目的化すれば、今度は職員の負担が増えるだけです。

重要なのは、将来の判断や検証に必要な情報を見極め、残すことです。

「決裁済み」で案件を閉じるのではなく、「数年後の職員が、この判断の理由を理解できるか」という視点を持つ。

文書管理と組織学習をつなぐために、必要な考え方ではないでしょうか。

以上、決裁文書が「なぜそう判断したか」を残せているのかについてお知らせいたしました。

何卒よろしくお願い申し上げます。

令和7(2025)年12月21日

※この記事は、元道庁職員としての個人的体験と見解に基づいています。
行政・公務員の世界に関心のある方の参考になれば幸いです。

コメント

  1. 北の役人 より:

    >>その裏にあるはずの検討経過、比較材料、現場の判断メモ
    なぜそう判断したのか
    別の選択肢はなかったのか
    次に同じ事案が起きたらどうするか

    “災害系の仕事なのに、学習しない組織”
    お送りした資料は、災害関係ではありませんが、補助金と許認可の関係を検討した際の資料です。
    昔、清水町での鳥インフルエンザ対応は、まさにそういったことを作成していなかったようです。

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