追記(2026年9月)
本記事は2026年2月21日に、北海道庁勤務時代の名刺作成をめぐる経験をもとに執筆したものです。実名での発信へ移行するにあたり、札幌市と北海道における名刺の公費負担をめぐるその後の動きを確認し、内容を整理しました。私が在職していた頃は職員が私費で名刺を用意することが一般的でしたが、その後、札幌市は公費負担へ移行し、北海道でも公費負担に向けた見直しが進みました。
関係者各位
いつも大変お世話になっております。
元道庁職員の白川部けいたでございます。
標記の件につきまして、下記のとおりお知らせいたします。
道庁時代、名刺は自腹だった
道庁へ入庁したばかりの頃、私は当然のように名刺が支給されるものだと思っていました。
ところが、いつまで待っても名刺は配られません。やがて、職務上必要であれば各自で用意するのが当時の一般的な運用だと知りました。
本庁勤務時代には、札幌駅周辺の名刺店を利用したり、自分で名刺用紙を買って印刷したりしていました。コピー機の設定に苦戦して名刺用紙を何枚か無駄にしたのも、今となっては懐かしい記憶です。
振興局へ異動した後には、地元の印刷店へ依頼して名刺を作ったこともあります。札幌とは価格環境も異なり、版代を含めると100枚で数千円かかりました。
特に印象に残っているのは、複数の職員で関係団体へ挨拶に行った時のことです。交換した名刺が相手方の机に並んだのを見ると、書体も配置もデザインもそれぞれ違っていました。
私費で各自が作っている以上、それは当然です。むしろ、統一されていないことの方が自然でした。
名刺は個人のものか、組織の業務用品か
名刺は個人の名前が印刷されたものです。その意味では、どこまで公費で負担するべきなのかという議論が生じるのも理解できます。
一方で、公務員が名刺を使うのは、多くの場合、個人的な交友関係を広げるためではありません。業者との打合せ、関係団体との協議、外部会議、自治体間の調整など、所属組織の名前で仕事をする場面で使用します。
そう考えると、名刺は「個人の自己紹介」であると同時に、「組織名で仕事をするための業務ツール」でもあります。
民間企業では、業務上必要な名刺を会社側が用意するケースが一般的です。私自身、道庁を退職して民間企業へ移った際、仕事で使う名刺が会社から用意されることに、あらためて違いを感じました。
もちろん、窓口業務を中心とする職員と、外部との折衝が多い職員では使用枚数も違います。全職員へ一律に同じ量を配る必要はないでしょう。
それでも、職務上必要なものについては組織が一定のルールの下で用意する、という整理には合理性があると思います。
札幌市、そして北海道でも見直しが進んだ
この名刺の扱いは、その後、実際に変わり始めました。
札幌市では、2024年の市長記者会見で、当時多くの職員が名刺を私費で作成している実態が取り上げられ、市長が公費負担を検討する考えを示しました。
そして2025年2月の記者会見では、札幌市は名刺を公費で負担する方針を明確にし、統一したデザインを市のPRにも活用する考えを示しています。
北海道でも2025年2月、鈴木知事が職員の名刺を公費で負担していく方針に言及し、職員の業務を支える環境整備の一つとして取り上げました。
また、同年3月の旭川市議会で紹介された北海道の検討状況では、令和7年度から、職務上の必要性やPRを目的とする名刺について、各部署の既存予算の範囲内で台紙購入を認める方向で整理していることが説明されています。
私が在職していた頃には「必要なら自分で作るもの」だった名刺が、職務上必要な業務用品として捉え直される方向へ動いたわけです。
行政の慣行は変わりにくい、と私はこのブログで何度も書いてきました。だからこそ、実際に見直された事例も同じように記録しておきたいと思います。
公費化するなら、公務と私用の線引きも必要
一方、公費負担へ移行すれば、それですべて解決するわけでもありません。
公費で作成する以上、その名刺は基本的に公務で使用する業務用品として位置付けるのが分かりやすいでしょう。
職員が個人的な地域活動や私的な交流、政治活動などで使用する名刺まで公費で賄うのは、別の問題です。公務用と私用の線引きは必要です。
この点は、名刺が「個人の名前が印刷された業務用品」という少し特殊な性格を持つからこそ、丁寧に整理する必要があります。
また、公費化したからといって、全員が完全に同じ名刺しか使えない仕組みにする必要もありません。組織としての基本デザインや必要な記載事項を定めつつ、業務の性質に応じた柔軟さを残す方法も考えられます。
大切なのは、「自腹か公費か」という二択だけではなく、誰が、どのような仕事で、何のために使うものなのかを整理することです。
名刺一枚から見える「慣行は変えられる」ということ
名刺は、たかが紙一枚です。
しかし、その紙一枚を誰が負担するのかという問題には、組織が仕事に必要な道具をどこまで用意するのか、昔からの慣行をどこまで見直すのかという考え方が表れます。
私が入庁した頃には、「仕事で必要なら自分で作るもの」だった名刺が、現在では「職務上必要なものについては公費で整える」という方向へ変わりつつあります。
オンライン印刷の普及によって、個人でも安価に名刺を作れる時代になりました。しかし、「安く作れるから自腹でよい」ということと、「職務上必要な業務用品を誰が負担するべきか」という制度論は、分けて考える必要があります。
行政には、長く続いてきた慣行がたくさんあります。
そのすべてが悪いわけではありません。長く続いているのには、それなりの理由がある場合もあります。
ただ、「なぜ今もこのやり方なのか」と一度問い直してみることには意味があります。
そして今回の名刺のように、疑問が可視化され、制度として見直されることもあります。
名刺一枚の話ではありますが、昔からそうだったことも、理由を問い直せば変えられる。
私は今回の見直しを、そうした小さな行政改善の一例として見ています。
以上、公務員の名刺と「業務用品」の境界についてお知らせいたしました。
何卒よろしくお願い申し上げます。
令和8(2026)年2月21日
この記事は、元道庁職員としての個人的体験と見解に基づいています。
行政・公務員の世界に関心のある方の参考になれば幸いです。
参考資料:札幌市長会見記録(2024/6/20、2025/2/10)/北海道知事会見(2025/2/13)/旭川市議会総務常任委員会記録(2025/3/5)




コメント