【考察】なぜ行政の仕事は遅くなりやすいのか

行政組織・公務員

追記(2026年9月)

本記事は2025年12月15日に、北海道庁勤務時代に感じた「行政の意思決定の遅さ」を振り返って執筆したものです。実名での発信へ移行するにあたり、当時の問題意識を残しつつ、特定の管理職や職員の動機を断定する表現を整理し、行政組織における決裁、調整、業務改善、デジタル化という観点から内容を一部修正しています。

関係者各位

いつも大変お世話になっております。
元道庁職員の白川部けいたでございます。

標記の件につきまして、下記のとおりお知らせいたします。

「道庁って仕事が遅い」と言われる理由

「道庁って、なんであんなに仕事が遅いの?」

在職中も退職後も、似たような言葉を耳にすることがありました。

行政の仕事が遅く見える理由を、単純に「職員が怠けているから」と説明するのは簡単です。しかし、実際に内部で仕事をしてみると、私はむしろ逆の印象を持ちました。

多くの職員は、それぞれの持ち場で仕事を進めています。

それでも一つの文書、一つの判断、一つの制度変更が外から見ればなかなか進まない。

その背景には、正確性、説明責任、庁内調整、予算、法令、過去の取扱いなど、行政が判断する前に確認しなければならない要素が積み重なっています。

つまり問題は「遅い職員が多い」というより、仕事が遅くなりやすい工程が組み込まれていることではないか。私は道庁で働きながら、次第にそう考えるようになりました。

多層的な決裁には意味がある。しかしコストもある

行政の仕事には「決裁」があります。

担当者が作成した文書を、主任や主査、管理職など複数の職員が確認し、最終的に組織として意思決定する仕組みです。

この仕組み自体には意味があります。

公金を使う判断や、住民の権利義務に関わる決定を、一人の担当者だけで決めてしまうわけにはいきません。

複数の目で誤りを確認し、担当者が見落としたリスクを拾い、組織として責任を持つ。行政に正確性と公平性が求められる以上、一定の確認工程は不可欠です。

一方で、確認者が増えれば、その分だけ説明、修正、差し戻しの回数も増えます。

私が経験した案件の中には、複数の担当課と管理職を経由し、10人前後が内容を確認するものもありました。

その過程で、文章を短くするよう求められた後に、別の確認者から詳しい説明を追加するよう求められる。表現を直した後に、さらに上位の職位で元の表現に近い形へ戻る。そんなこともありました。

これは必ずしも誰かが意地悪をしているわけではありません。

立場によって気になる点が違い、確認者それぞれが自分の役割から文書を見ているためです。

ただ、確認の目的や完成基準が共有されていなければ、品質管理のための決裁が、結果として大きな時間コストを生むことになります。

調整が増えるほど、実際に手を動かす時間が減る

行政の仕事では、決裁だけでなく「調整」にも多くの時間を使います。

関係課との打合せ、財政部局との調整、国や市町村との連絡、議会対応、外部団体との会議。一つの政策や事業に関係者が多いほど、それぞれの立場を確認しながら進める必要があります。

調整そのものは必要です。

行政は一つの部署だけで完結する仕事ばかりではありません。

しかし、会議や説明が増えるほど、担当者が資料を作ったり、制度を考えたり、実際の業務を処理したりする時間は当然減っていきます。

私は以前、「会議資料を作るための会議」についての記事も書きました。

そこで感じていた違和感と、行政の仕事の遅さは同じ問題の別の側面だったのだと思います。

情報共有のために会議を開く。

その会議に向けて資料を整える。

資料を確認するためにさらに打合せを行う。

一つひとつには理由があっても、工程全体を見直さなければ、調整のための仕事が本来業務を圧迫していきます。

デジタル化しても、手続が残れば仕事は減らない

私が在職していた当時、道庁では電子化が進みつつある一方で、紙の手続も多く残っていました。

印象的だったのが、勤怠管理です。

電子的に確認できる記録がある一方、紙の出勤簿も使われており、両方を照合する事務が発生することがありました。

紙の出勤簿を保管するファイルには、押印しやすいように窓が加工されていたものもあり、当時の私は「電子化とは何だろう」と考えたことを覚えています。

ただ、これは道庁だけの特殊な話というより、組織がデジタル化する際に起こりがちな問題だと思います。

新しいシステムを導入しても、従来の紙手続をそのまま残せば、仕事は減りません。

むしろ「電子でも入力し、紙にも記録する」という二重作業になります。

デジタル化の目的は、紙を画面に置き換えることではありません。

既存の業務工程そのものを見直し、不要になった確認や転記をやめることです。

前の記事でも触れましたが、行政DXで本当に問われるのは、新しい道具を入れたかどうかではなく、その道具によって何の仕事をなくせたかだと思います。

若手のスキルだけでは組織は変わらない

若い職員の中には、Excelや各種ITツール、新しい業務手法に詳しい人もいます。

しかし、個人が新しい方法を知っていることと、組織全体の仕事の進め方を変えられることは別問題です。

行政では異動が多く、業務ごとの権限も分かれています。

一つの係で便利な仕組みを作れても、他部署に広げるためには情報政策、総務、人事、財政など、別の所管との調整が必要になる場合があります。

また、担当者自身が数年後には異動します。

そのため、個人の工夫だけに依存した改善は、担当者が替わると元に戻ってしまうこともあります。

私は当時、若手の能力が生かされていないと感じることがありました。

今振り返ると、問題は単に「若手に任せない」ことではなく、現場の工夫を組織の標準的な仕組みに変える経路が弱かったことではないかと思います。

改善意欲のある職員が一人いれば行政全体が変わる、というほど組織改革は簡単ではありません。

だからこそ、良い改善を個人技で終わらせず、共有し、評価し、継続できる仕組みが必要です。

「遅さ」を個人ではなく工程から見直す

道庁の仕事が遅いと感じる場面は、確かにありました。

しかし、遅くするために制度が作られたわけではありません。

正確性を高めるために決裁を増やす。

説明責任を果たすために資料を作る。

関係者との認識を合わせるために会議を開く。

記録を残すために手続を設ける。

それぞれには合理的な理由があります。

問題は、それらを長年積み重ねた結果、現在も本当に必要なのか分からない工程まで残っていないかということです。

確認者が10人必要なのか。

同じ情報を複数の様式へ転記する必要があるのか。

会議でなければ共有できないのか。

紙と電子の両方を維持する必要があるのか。

行政改革というと、大規模な組織再編や人員削減が注目されがちです。

しかし、日々の仕事の中にある一つひとつの工程を見直すことも、十分に行政改革です。

「誰が遅いのか」を探すのではなく、「どの工程が時間を使っているのか」を調べる。

そして、正確性や説明責任を損なわずに減らせる工程を一つずつ減らしていく。

行政の意思決定を速くするには、そうした地道な見直しから始めるべきではないでしょうか。

以上、行政の仕事が遅くなりやすい理由についてお知らせいたしました。

何卒よろしくお願い申し上げます。

令和7(2025)年12月15日

※この記事は、元道庁職員としての個人的体験と見解に基づいています。
行政・公務員の世界に関心のある方の参考になれば幸いです。

【日程調整】会議資料を作るための会議の開催につきまして
追記(2026年9月)本記事は2025年12月3日に、北海道庁勤務時代の会議や資料作成を振り返って執筆したものです。実名での発信へ移行するにあたり、当時の問題意識やユーモアを残しつつ、特定の上司・職員への言及を削り、行政組織における意思決定…

コメント

  1. 北の役人 より:

    >>変えたくない人が多数派で、 その人たちが管理職になり、 改善したい若手は疲弊して去っていきます。

    私も事務改善をしたい方ですが、そういうことをしようとすると必ず、反対する人間、特に権限を持っている管理職にいて結局、進まなかったですね。

    他にやる気と能力もないことも要因のひとつでしょう。
    ある部署で前任者からこの事務を完了させるには、臨時職員があと3人必要で、3年かかると引き継ぎを受けたものを今までとは違うやり方で臨時職員1人と私とで4ケ月ほどで終わらせたことがあります。
    また、過去5人の係長が7年にわたって、処理できなかった5件の懸案事項をアプローチの方法を
    変えて、3ケ月で終わらせました。
    別に自慢しているわけではなく、その程度の工夫もしない職員ばかりだから北海道がよくならないということですよね。

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