関係者各位
いつも大変お世話になっております。
元道庁職員の白川部けいたでございます。
標記の件につきまして、公開資料をもとに整理・検証いたします。
明日、厚生委員会で3本の陳情が審査される
私は今年3月から、「さっぽろの子育て世代を元気にする会」の代表として、有志のメンバーとともに、札幌市の子ども医療費助成に残る所得制限の撤廃を求める活動を続けてきました。9月28日には、集めた署名を札幌市へ提出しています。
先ずはこの場を借りて、活動に参加してくださったメンバーの皆さま、署名に協力してくださった皆さま、周知や声掛けに力を貸してくださった皆さまに、改めて心から感謝申し上げます。
この活動は、一人では到底ここまで進めることができませんでした。署名という形で意思を示してくださった一人ひとりのご協力があって、9月28日の提出までたどり着くことができました。本当にありがとうございました。
そして明日、令和8年(2026年)10月6日の札幌市議会厚生委員会では、子ども医療費助成の所得制限撤廃に関する3本の陳情が審査される予定です。
- 陳情第249号「子ども医療費助成制度の所得制限撤廃に関する陳情」― 初審査
- 陳情第39号「医療費助成の所得制限撤廃の陳情」― 継続審査
- 陳情第17号「18歳以下の医療費助成の所得制限撤廃に関する陳情」― 継続審査
私たちが9月28日に提出した署名と、これらの陳情は同じ手続ではありません。ただ、同じ政策課題について、市民から繰り返し声が上がり、議会でも審査が続いているという点ではつながっています。
私自身、所得制限は撤廃すべきだと考えています。だからこそ、撤廃を求める側にとって正面から向き合う必要のある数字も、雑に扱いたくありません。
そこで今回、札幌市がこれまで説明してきた「撤廃後は毎年10億円強の財源が必要」という数字を、公開資料からどこまで追えるのか確認してみました。
札幌市が示した「毎年10億円強」と、約3万2,000人
この「10億円強」という数字は、令和7年(2025年)2月26日の札幌市議会厚生委員会で確認できます。陳情第39号の審査において、保険医療部長は、所得制限撤廃に向けた予算要求の経緯を説明しています。
「所得制限の撤廃につきましても、多くの市民から要望が寄せられておりまして、今年度で高校生世代への年齢拡大に係る準備作業が完了する見通しであったことから、電算システム改修や申請受付のための経費、約1億円が必要と見込んだところであります。
しかしながら、撤廃後は毎年10億円強の一般財源が必要となることから、現時点では財政確保の見通しが立たず、令和7年度予算案への計上は見送ったところであります。」
令和7年度の予算要求資料を確認すると、所得制限撤廃に係る初期経費として104,265千円が要求されていました。内訳は、システム改修73,232千円、申請受付業務31,033千円です。しかし、財政部査定では0円となり、「実施に係る経費及びその財源に鑑み、実施を見送る」とされています。
さらに同じ厚生委員会の答弁では、所得制限を撤廃した場合、新たに対象となる方を約3万2,000人と見込んでいたことも示されています。
ここは重要です。私が当初気になっていた「そもそも何人を追加対象と見込んでいるのか」という点については、公開されている会議録から一つ答えが見つかりました。
単純に10億円を3万2,000人で割ると、1人当たり年約3万1,000円、月にすると約2,600円です。もちろん「10億円強」は一般財源ベースの概算であり、全員が同じ医療費を使うわけでもありません。この割り算だけで積算を再現したことにはなりません。
ただ、「約3万2,000人」という母数が分かったことで、次に知りたいことがより具体的になります。
子ども医療助成費の予算と決算を並べてみる
次に、子ども医療助成費について、私が札幌市の予算・決算資料から確認した当初予算と決算額を並べました。
| 年度 | 当初予算 | 決算 | 単純差 |
| R2 | 約36.47億円 | 約27.55億円 | 約8.92億円 |
| R3 | 約47.43億円 | 約38.74億円 | 約8.69億円 |
| R4 | 約47.78億円 | 約40.63億円 | 約7.15億円 |
| R5 | 約41.79億円 | 約49.43億円 | 約▲7.64億円 |
| R6 | 約59.02億円 | 約54.51億円 | 約4.51億円 |
| R7 | 約69.47億円 | 約58.98億円 | 約10.49億円 |
※R5年度については、補正が組まれたものと考えられますが、今回は補正額まで正確に読み解けなかったため、当初予算と決算額の単純比較としています。
年度によっては、当初予算と決算の間に数億円から10億円程度の差が生じています。ただし、ここをもって「毎年これだけ扶助費内でも余っているのだから、そのまま毎年所得制限撤廃の財源に使える」と考えるのは適切ではありません。
医療費助成は受診状況や対象人数などで実績が変動しますし、年度途中の補正もあります。実際、R5は決算額が当初予算を上回っています。
R7については、決算説明書で「医療助成費」全体の予算現額約131.20億円、支出済額約115.53億円、不用額約15.67億円までは追えます。しかし、この「医療助成費」には、子ども医療だけでなく、重度心身障がい者医療、ひとり親家庭等医療、医療助成事務費なども含まれます。
事項別明細書も医療助成費全体を扶助費や役務費などに分解するところまでで、子ども医療助成単独の最終予算額や不用額までは、少なくとも私が確認した公開資料からは切り出せませんでした。
したがって、この記事で予算と決算の差を示す目的は「10億円は毎年予算の余りで出せる」と主張するためではありません。子ども医療という事業には年度ごとの変動があり、その中で新たな恒久経費をどう見積もったのかを確認したい、という問題意識です。
では「10億円強」の計算式は、どこまで見えるのか
公開資料を追った結果、少なくとも次のことは確認できました。
- 所得制限撤廃によって新たに対象となる人数の想定:約3万2,000人(令和7年厚生委員会での発言)
- 初年度のシステム改修・申請受付等:約1億円(令和7年度予算要求および今定例会での補正額)
- 撤廃後に必要とされる財源:毎年10億円強の一般財源(令和7年厚生委員会での発言)
一方、私が現時点で公開資料から十分に確認できていないのは、その間をつなぐ計算です。
- 約3万2,000人の年齢別の詳細な内訳
- 年齢別・所得制限対象外世帯における受診率の想定
- 1人当たりの医療費助成額をどの程度で見込んだのか
- 高額療養費や付加給付等をどのように反映しているのか
- 医療費本体と恒常的な事務費をどこまで含んでいるのか
- 道費などの特定財源を差し引いた後、一般財源10億円強になる過程
- 医療費の上振れ・下振れを過去の実績からどの程度見込んでいるのか
行政内部では、当然、対象者数や過去の受診実績、年齢別医療費などを用いて試算しているものと思います。職員はプロですし、部内査定、財政課査定、市長査定の厳しさは私も元道庁職員ですから想像に難くありません。私は「積算していない」と言いたいわけではありません。
問題意識はもっと単純です。政策判断を左右する「毎年10億円強」という数字について、市民が公開資料をたどったとき、計算式を十分に再現できない。だから、その内訳をもう少し見たいのです。
そして、もう一つ重要な点があります。「毎年10億円強」は令和7年2月時点の答弁です。
令和8年6月には、北海道側の子ども医療費助成に関する所得制限見直しを受け、秋元市長自身が、北海道の補助を財源の一部として活用できるのであれば、札幌市としても所得制限撤廃を含め検討を進めたい旨を説明しています。さらに、現在の令和8年第3回定例市議会には、札幌市子ども医療費助成条例の一部改正案も提出されています。

つまり、「10億円強」という数字が当時の積算として妥当だったとしても、財源条件が動いた現在、全面撤廃に必要な一般財源が今も同じなのかは改めて確認する必要があります。
私はここにも、数字を一度示して終わりにするのではなく、制度や財源条件が変わるたびに前提を更新していく必要性を感じます。
「10億円は嘘」ではなく、「計算式を見たい」
ここは、今回の記事で最も誤解されたくない部分です。
私は、札幌市の「10億円強」という試算に根拠がない、と主張しているわけではありません。
現時点で、そのように断定できる材料を持っていません。むしろ、本当に毎年10億円強の一般財源が必要なのであれば、所得制限撤廃を求める側こそ正面から受け止めるべき数字です。
恒久的に毎年発生する10億円と、一度だけ発生する10億円では、財政上の意味がまったく違います。財源をどう確保するのか、他の施策との優先順位をどう考えるのかという議論も必要です。
一方で、行政側が「財源確保の見通しが立たない」ことを重要な見送り理由として何度も説明するのであれば、その判断の前提になった数字も、可能な範囲で市民が追える形になっていてほしいと思います。
「10億円」という分かりやすい数字だけが繰り返されると、いつの間にか、その数字自体が検証対象ではなく、議論の前提として固定されてしまいます。
10億円強が、細かな積算を丸めた説明なのか。一定の安全率を持たせた概算なのか。年齢別・受診率別にどのような前提を置いているのか。令和8年以降の北海道の制度変更を踏まえると、必要な一般財源はどう変わるのか。私は知りたいです。
数字を見て、計算式を見て、その上で政策を考えたい
私は、子ども医療費助成の所得制限を撤廃すべきだと考えています。
だからといって、「10億円なんて大した額ではない」「予算が余っているから出せる」と簡単に片付けるつもりはありません。それでは、市の説明を検証しているようで、こちらもまた数字を雑に扱うことになります。まあ、本来市民側がそこまで行政の作法で検証する必要があるのか、という所はおいておいて…。
反対に、市の側も「毎年10億円強必要だから難しい」と説明するのであれば、その数字がどのような前提で作られたのかを、分かりやすく示してほしいと思います。
行政の数字は、政策判断の前提です。
その数字が正しいかどうかを争う前に、まずどう作られた数字なのかを見る。
数字を見たら、次に計算式を見る。
その上で、必要な施策なのか、財源をどう確保するのかを考える。
私は、そういう姿勢で施策・政策を考えていきたいと思っています。
今後、札幌市政により深く関わる機会を得たなら、こうした数字こそ、積算資料を求めて確認したいと思っています。
なお、公開資料の見落としや、私の読み違いがある可能性はあります。「10億円強」の詳しい積算資料をご存じの方がいれば、ぜひ教えていただければ幸いです。
明日10月6日の厚生委員会では、所得制限撤廃に関する3本の陳情が審査されます。制度の是非だけでなく、その判断を支える数字についても、引き続き追っていきたいと思います。
以上、子ども医療費助成の所得制限撤廃に必要とされる「毎年10億円強の一般財源」について、公開資料から確認できる範囲を整理いたしました。
何卒よろしくお願い申し上げます。
令和8年10月5日
参考資料・リンク

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